新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)が発生してから1年半、私たちの生活様式は変わり、多くの事業者が影響を受けています。近年の日本では感染症でここまでの影響を受けたことはありませんでした。「想定外は発生する」ということです。
 新型コロナを自社のリスク対策の見直しの機会と捉えていただき、BCPなどを作成されていない企業は、その策定をご検討されてはいかがでしょうか。このコラムでは、新型コロナの想定外を振り返り、想定外への対策を解説し、その検討のためのツールとして、事業継続力強化計画と感染症対応力向上プロジェクトをご紹介します。

1.新型コロナの想定外

 新型コロナの影響は、近年の日本で発生したどの感染症よりも大きく、新型インフルエンザの際にBCPを策定した企業でも想定外がありました。

 想定外① 世界的な広がりと人命への影響が大きく、生活や企業活動に大きく影響した
   ・規模が想定を超えており、仕入先の東西分散でも不十分であった。
   ・自社で感染者が発生していない予防の段階で、テレワーク、時差出勤、自宅待機、交替勤務など社員が出社できない状況が生じた。
   ・休業要請などで、自社の状況とは無関係に休業にせまられた。
 想定外② 正しい情報をわからなくて、正しい行動を判断することが難しかった。
   ・未知の感染症で、症状、治療法、感染経路、検査法など情報が不確定だった。
   ・情報が変化して、多くの行政の情報、保健所の対応、検査基準、濃厚接触者の定義 よくわからない。
 想定外③ 対策を実施したら、思った通りに進まなかった。
   ・テレワークはしたものの、業務管理が難しく生産性が落ちた。
   ・社員からの感染症対策への抵抗があった。

2.想定外の対策

① 発生する事象ではなく、結果に着目する。
 新型コロナでは、感染症予防のため出社できないという欠員、輸入停止や取引先の休業などによる欠品、休業要請や自社で感染者が発生したりすることによる休業/営業縮小、顧客行動の変化による売上減少、それに伴う雇用維持、資金繰りの悪化などの影響がありました。しかし社員が出社できない、営業ができないという状況は、地震や風水害でもあります。仕入に影響が出るのは、仕入先の火災などでも発生します。これらの影響が長引けば、雇用維持が難しくなったり、資金繰りが悪化したりすることは他の災害でも起こり得ることです。これは、今まで経験したことのない未知の災害やリスクでも起こり得ます。今回の教訓を生かして、想定する範囲を広くとらえ、対応を予め検討しておきましょう。

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② 想定外に強い組織を作る。
 BCPを策定した企業からは、想定外はあったものの「ある程度使えた」という声もあります。例えば、「BCPは大枠だけなのである程度使えた。」「状況に応じて、対応方針を都度アップデートして社内に周知徹底した」「優先業務、安否確認体制はBCPに沿って対応できた」などです。つまり、変化する状況に柔軟かつ迅速に対応できる組織とヒトの準備が役立ったと言えます。
 「情報・対策の変化に対応できる社内体制の構築」「従業員の啓発・訓練」は重要です。前者は、非常時の意志決定者や方法、内部の情報伝達方法、安否など従業員の状況の把握方法、社外へのコミュニケーションルール、出社しなくても業務ができる仕組みと制度の導入などです。後者は、従業員に、BCPの内容と必要な行動を周知しておく、防災訓練や季節性インフルエンザなどで少しでも体験しておくことが考えられます。

3.リスク対策の見直しに役立つツール

① 「事業継続力強化計画」(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm
 これはBCPの簡易版といえるツールで、地震、風水害から感染症、サイバー攻撃までを対象としており、幅広いリスクを包括的に検討できます。ガイドの例に沿って、ひな型に記入していくことで、自社のリスクとその影響を認識し、災害発生時の初動対応とリスクへの対策、平時の備えなどを体系的に整理することができます。分厚い書類ではありませんので、中小企業でも対応できます。低利融資、信用保証枠の拡大等の金融支援、防災・減災設備に対する税制措置、補助金の加点などのメリットもあります。
 BCPを策定されていない企業には、まず事業継続力強化計画でリスク対策全般を整理して、必要に応じて、各災害に対するBCPや対策書を別途作成することをお勧めします。特に災害時の初動対応(人の安全確保や設備の維持)は、自然災害であれば避難、感染症では感染症予防・拡大防止策というように、災害によって対応が異なります。初動対応は、災害別に対策しておくことをお勧めします。

② 「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」(東京都福祉保健局)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kansen/project/project-start.html
感染症BCPのひな型を提供しており、個別の対策としての感染症BCPの策定に役立ちます。この事業は、東京都内の法人・事業所に、感染症対策ツールを無償で提供するもので、東京商工会議所が委託されて運営しています。これまでに800を超える法人・事業所が参加し、新型コロナウイルス感染症にも対応しております。基準達成企業は、企業名を東京都のホームページでPRできます。

【感染症対応力向上プロジェクトの内容】
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 ワクチン接種が始まったとはいえ、新型コロナの今後の動向はまだ予断を許しません。長期化への備えをしつつも、収束した際のビジネスのリカバリーの準備も検討しておく必要もあり、まだまだ気の抜けない局面が続くと予想されます。少し余裕ができてからで結構ですので、事業継続のために、今後のリスクの備えにも目を向けていただければと思います。

【略歴】
■ 小川 亮一(おがわ りょういち)
 中小企業診断士:
 東京都中小企業診断士協会 中央支部 研修部
 主な専門分野:健康経営、経営計画策定支援、職場の生産性向上・人財育成支援 等