これまで経済産業省より、DX(デジタルトランフォーメーション)にかかわる3本のレポート
・「DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」(平成30年9月)※1
・「DXレポート2(中間とりまとめ)」(令和2年12月)※2
・「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」(令和3年8月)※3
が発表されている。
 DXレポート2※2で発表された結果によると、95%の企業はDXにまったく取り組んでいないか、取り組み始めた段階であり、全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っておらず、また先行してDXに取り組む企業と平均的な企業のDX推進状況は大きな差があるとしている。(図1)
Fig_20220201

図1:DX推進指標自己診断結果

出典:経済産業省「DXレポート2 中間とりまとめ(概要)」※2より抜粋

 そこで、本コラムでは、上記3本のDXレポートをサマリする形で、DX推進の重要性(DXに取り組まない場合のリスク)と、その推進方法について考察したい。

■DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
 考察を始める前に、改めてDXの定義について確認する。DXについては、DXレポート※1内で、IT専門調査会社のIDC Japanの定義を引用する形で以下の通り定義されている。
 “企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”
また、この定義を補足する形で、DXレポート2※2では、DXの本質および企業の目指すべき方向性として、
“企業が競争上の優位性を確立するには、常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、「素早く」変革「し続ける」能力を身に付けること、その中では ITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することが重要”
と示されている。

■DX推進の重要性
 では、このDXに取り組まない場合、各企業にはどのような弊害が生じるのだろうか?この点についてもDXレポートおよびDXレポート2を用いて確認する。
 DXレポート※1では、2025年の崖として既存システムのブラックボックス状態を解消しつつ、データ活用ができない場合(DXに取り組まなかった場合)の弊害として以下3点を警告している。(図2)
① デジタル競争の敗者になる
 爆発的に増加するデータを活用しきれず、市場の変化に対応して、ビジネス・モデルを柔軟・迅速に変更することができずデジタル競争の敗者に
② 技術的負債を抱える
 既存システムがブラックボックス状態で放置されてしまうので、長期的に保守費や運用費が高額化してしまう技術的負債を抱えることとなり、ITシステムの維持管理費が高額化し、業務基盤そのものの維持・継承が困難になる
③ セキュリティ事故・データ滅失等のリスクが高まる
 保守運用の担い手が不足(不在)し、サイバーセキュリティ事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出等のリスクが高まる
Fig_20220202

図2:2025年の崖

出典:経済産業省「DXレポート(簡易版)」※1より抜粋

 さらに、DXレポート2※2では、
“コロナ禍によって人々の固定観念が変化した今こそ企業文化を変革する機会。ビジネスにおける価値創出の中心は急速にデジタルに移行しており、今すぐ企業文化を変革しビジネスを変革できない企業は、デジタル競争の敗者に“
というかなり強い警鐘を鳴らしている。

■DXの進め方
 前述の通りDXに取り組まない場合、様々な弊害が生じることが想定される。そこで、本節では、DX推進の第一歩として有用であると思われる、経済産業省「DX推進指標」(令和元年7月)を紹介する。(図3)
Fig_20220203

図3:「DX推進指標」の構成

出典:「DX 推進指標」とそのガイダンス※4

 DX推進指標は、各企業が簡易な自己診断を行うことで、経営者や社内関係者がDX推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための気付きの機会を提供するものとして策定された。各診断項目について、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などが議論をしながら回答することが想定されており、具体的には以下の2点から構成される。
 ① DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
 (「DX推進の枠組み」(定性指標)、「DX推進の取組状況」(定量指標))
 ② DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標
 (「ITシステム構築の枠組み」(定性指標)、「ITシステム構築の取組状況」(定量指標)。
定性指標は35項目からなり、現在の日本企業が直面している課題やそれを解決するために押さえるべき事項を中心に項目が選定されている。

 各社の自己診断結果については、中立組織であるIPA(独立行政法人情報処理推進機構)に提出することで、自社の診断結果とIPAにて収集された各社の診断結果の集計値(ベンチマーク)を比較することができ、自社と他社の差を把握することで、次にとるべきアクションについて理解を深めることが期待でき、DX推進の第一歩として有用であると思われる。

 最後に、DXレポート2.1では、今後DX成功のパターンが策定されることが示されており(図4)、この内容を踏まえたDX推進方法のブラッシュアップが期待されるので、次回DXレポートの発表を楽しみに待ちたい。

Fig_20220204

図4:DX成功パターンの策定

出典:経済産業省「DXレポート2.1(概要)」より抜粋

参考文献(引用元):
※1:DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~ https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~(簡易版)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_02.pdf
※2:DXレポート2 中間とりまとめ
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-2.pdf
DXレポート2 中間とりまとめ(概要)
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-3.pdf
※3:DXレポート2.1(DXレポート2追補版)
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-2.pdf
DXレポート2.1(DXレポート2追補版)(概要)
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-1.pdf
※4:「DX 推進指標」とそのガイダンス
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf

【プロフィール】
 笹原 聡(ささはら さとし)
 経済産業大臣登録 中小企業診断士
 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員・研修部副部長