【質問】
 中小企業である弊社では、これまで、取引にかかる契約書についてはお客様の方から提示いただいたものを利用していたのですが、お客様から、今般初めて、弊社の方で作成するように言われました。契約書の作成は、専門家に依頼した方がよいでしょうか。

【回答】
 契約書の作成を弁護士などの専門家に依頼するかは、費用対効果と、現実的に自分で作成できるかの2つの観点から検討しましょう。
 専門家、特に弁護士に依頼する方が、裁判実務を踏まえた法的リスクをしっかり吟味した契約書ができますので、安心です。
 しかし、予算が限られている中小企業では、すべての契約書の作成を専門家に依頼するのは現実的ではありません。そのため、よくある単純な契約類型であったり、前職などで契約書の作成実務に携わった経験があるなど、自分で作成することが可能であれば、専門家に依頼せず自分で作成するのも一つの方法です。
 もっとも、複雑な取引類型であったり、リスクが高い取引であったり、御社の主たる事業に関するもので、ひな形として今後も反復して利用することが予定されるような契約書であれば、費用がそれなりにかかっても、弁護士に作成を依頼することをおすすめします。
また、自分で作成する場合でも、弁護士に一度相談してブラッシュアップしましょう。

1 契約書を作成する理由
 民法では、法令に特別な定めがなければ、口頭でも契約は成立します。例えば、スーパーで食品を買うときには、通常契約書を作成しませんが、レジで現金を払った時点で、食品の売買契約が成立しています。
 もっとも、不動産の売買や企業取引では、実務上契約書を作成することが多いと思いますが、それがなぜかというと、後のトラブルを予防するためです。当事者間で取り決めた契約条件を書面で明確にしておけば、後にトラブルになったとしても、交渉時の解決の指針になりますし、裁判になったとしても、その取り決めた契約条件を証明することができます。
 また、当事者間で特別な契約条件を定めない場合には、その契約は、民法等の法律で定められたルールに従うことになります。しかし、法律には全てのルールが細かく規定されているわけではありません。そのため、当該取引において将来起こりうるトラブルをできる限り想定し、個別のルールを取り決めることがトラブル予防になりますが、契約書を作成すると、その作成の過程で、個別のルールを考えるのに役立ちます。
 さらに、民法等の法律で定められたルールには、当事者間の取決めで変更できる規定と、取決めでも変更できない規定があります。前者を任意規定、後者を強行規定といいます。任意規定は、取決めで変更すればその取決めがルールとなり、そのような取決めがないときにその法律がルールとなる関係にあります。そのため、契約書は、民法等の任意規定を変更し、自己に有利なルールを取り決めるためのツールとして利用されます。

2 契約書作成の基本的な手順
 以上を前提に、実際に契約書を作成するときの基本的な手順についてご説明します。
(1)契約書を作成する際には、まず、当該取引に近い取引類型を考えます。
例えば、製品・商品を仕入れる場合でも、売買契約、製造委託契約、販売店契約など、様々な取引類型が考えられます。
また、単発の取引ではなく、継続的な取引が予定されていれば、基本契約と個別契約を意識して作成する必要があります。
 ピンポイントで該当する取引類型がなければ、近い取引類型を複数検討します。
(2)次に、検討した取引類型の契約書式を入手します。
 これがなかなか難しいのですが、弁護士であれば、日々、専門の書式集などを購入し情報収集しています。公共の図書館にも書式集は置いてあると思いますが、その取引類型に関する詳細な契約書式が記載された書式集が置いてあるとは限りません。
 また、最近では、有料の電子契約サービスを利用している方もいらっしゃると思いますが、こういうサービスでは契約書式をひな形として利用できるものもあるようです。
 インターネットで書式を探される方もいらっしゃいますが、不十分なものも多く、おすすめしません。ただし、国等が公表している書式については参考になるものがあります。

<国が公表している書式例>
「中小企業者のためのエクイティ・ファイナンスの基礎情報 株式発行により資金調達をする際の基礎知識と投資契約書のひな形を整理しました」(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/equityfinance/index.html
「「中小M&Aガイドライン」を策定しました」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001.html

 また、利用規約であれば、自社のWebサイトで公表している企業が多くありますので、同種のサービスを提供している大手企業の利用規約を参考にさせてもらうこともあります(あくまで参考です)。
(3)契約書式はできる限り複数用意し、それを見比べて、当該取引類型において、通常記載する条項が何かをチェックします。
 また、その契約書式の中で、一般的に、契約に共通する条項(契約期間・更新・中途解約、解除、損害賠償、秘密保持、反社会的勢力の排除、合意管轄等)が抜けていないかチェックします。
(4)その上で、その契約書式をカスタマイズしていきます。
 契約書式の条項ごとに、当該取引の実態にあうように、また、自社に有利な条項へと文言を修正していきます。
 また、契約書式には定められていない個別の取決めがあれば文言を追加していきます。
 なお、契約書の各条項は、売主・買主など、立場によって有利不利が異なります。契約書式はどちらの立場で作成されたものかを意識することが重要です。自分に不利な条項をわざわざそのまま使っている契約書も見受けられます。

 その他、契約書作成の基本的な留意点については、東京都よろず支援拠点の動画セミナー「よくある相談内容から考える契約書作成の留意点」でポイント解説していますので(2022年4月時点)、よろしければご視聴ください。
https://www.youtube.com/watch?v=lOKALx6DqE0
 
3 弁護士への依頼
 前述したように、契約書を作成するのは、裁判になったときに契約条件を証明するためにあります。しかし、折角契約書を作成しても、その文言があいまいで解釈に疑義があったり、必要な取決めが抜けていると、契約書を作成した意味がなく、トラブル予防になりません。
 そのため、契約書を作成するのであれば、専門家、特に弁護士に依頼することをおすすめします。特に、複雑な取引類型であったり、リスクが高い取引であったり、御社の主たる事業に関するもので、ひな形として今後も反復して利用することが予定されるような契約書であれば、失敗したときの企業に及ぼす影響が大きいため、費用がそれなりにかかっても、弁護士に作成を依頼すると良いでしょう。
 知り合いの弁護士がいない場合には、顧問税理士や金融機関などに紹介してもらう方法があります。また、東京弁護士会中小企業法律支援センターでは、30分無料(2022年4月時点)で相談できる弁護士を紹介してくれますので、その相談の際に、依頼した方がよいか、費用はどれくらいかを確認してください。条件があえば、その後、契約書の作成を依頼することもできます。

■東京弁護士会中小企業法律支援センター 
https://cs-lawyer.tokyo/

 また、自分で作成する場合であっても、作成する前に、当該取引にあった契約書作成の留意点について弁護士に相談しておくと、方向性を間違えずに済みますし、作成した後にも契約書案を弁護士にみてもらうと、ブラッシュアップすることができます。
 東京では、中小企業向けに無料で弁護士に相談することができる相談窓口を設けた公的機関が結構あります。相談時間は短いですが、ちょっと聞いてみたいというときにおすすめです。その結果弁護士に作成を依頼しようと思えば、弁護士の探し方や費用感についてもアドバイスを受けられると思います。

<弁護士に相談できる公的機関の相談窓口の例>(2022年4月時点)

■東京商工会議所
「窓口専門相談」 
https://www.tokyo-cci.or.jp/soudan/senmon/

■東京都中小企業振興公社
「ワンストップ総合相談窓口」
 https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/soudan/index.html
「東京都知的財産総合センター 知財相談」
 https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/consultant/index.html
「TOKYO創業ステーション 専門相談」
 https://startup-station.jp/m2/services/consultation/specificfield/
「多摩支社 経営相談」
 https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/center/soudan/tama.html

■東京都よろず支援拠点 
 https://tokyoyorozu.go.jp/

【プロフィール】(2022年4月時点)

関 義之(せき よしゆき)
関&パートナーズ法律事務所 代表 弁護士・中小企業診断士
https://seki-partners.com/
東京弁護士会中小企業法律支援センター 副本部長
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 事業承継研究会 幹事
東京都よろず支援拠点コーディネーター
東京商工会議所 経営安定特別相談室 専門スタッフ