活動報告

専門家コラム「不誠実な経営者の特徴とは? 取引先で失敗しないための5つのチェックポイント」(2025年10月)

0.序章

 皆様のお取引先の経営者は誠実でしょうか? 経営者として、人として一番大切なのは誠実であることです。不誠実な経営者と付き合うと、経営困難に陥るリスクは一気に高まります。こちらでは、中小企業診断士の視点から、不誠実な経営者の特徴と、取引先選びで失敗しないための五つのチェックポイントを紹介します。

1. 不誠実な経営者の事例

 私は中小企業診断士として、たくさんの経営者を見てきました。人柄が誠実な経営者ほど、良い業績であることが多いです。赤字で大変だからと呼ばれたところはこのような不誠実な対応をされました。

事例その1:経営者に不満を持った従業員が、火をつけたとのこと。その組織は赤字だったので、何とかしてほしいというご依頼でした。しかし、経営者は私に仕事を丸投げすれば、勝手に黒字になると思っていた様子。非協力的であり、常に逃げ腰でした。3か月経って黒字にならないからと一方的に契約を解除してきました。ご存知かと思いますが、コンサルティングはこちらからの提案に対して、クライアントが協力して動いていただかないと成果は出ないのです。しかし、この組織の経営者には、こちらの言い分をきいてもらえません。しかも、当月のコンサルティング料を支払わず、こちらからの督促の電話にも出ないという。残念なことにこのコンサルティング料は貸倒となってしまいました。当初、火をつけた従業員がとてもおかしいのかと思っていましたが、経営者にも不誠実であるという落ち度があるということがわかりました。

事例その2:赤字体質であり、どうしたら黒字化できるかということでその組織のコンサルティングを行いました。経営者は私の正論ではなく、お友だちの会計事務所の怪しげな理屈を採用し、さらに赤字が増加。私のコンサルティングはほとんど取り入れられませんでした。これは、私が女性だからなのでしょうか。結局、1年で契約解除となりましたが、問題はその手続きでした。誠実なクライアントは1か月前から「こういう事情で契約更新しない。申し訳ない」と説明し、経営者も頭を下げてくれます。しかし、こちらの組織は経営会議の当日資料、紙切れ1枚1行に「契約解除する」とのこと。私は「1行とは。これは川柳なのかな」と思いました。(中小企業診断士は年に1回川柳を募集しているので。)その後、重要なキーマン(役職者で実質No.2)も経営者と合わなかったのか、辞めてしまい赤字が増大したそうです。

 書き始めるとまだまだたくさんの事例があるのですが、キリがないのでこのぐらいにします。
 何を伝えたいかというと、「経営者の皆様、取引先が不誠実な経営者だと、貴社の経営も危うくなります」ということです。私のような想いはこちらを読んでいる皆様には味わってほしくないという強い願いで書いています。
 皆様に置き換えて考えてみましょう。取引先が約束した納期や契約が守らなかったり、貴社の技術を勝手に使って自社のもののようにふるまわれたりしたら、皆様はどう思われるでしょうか? 空想だったらいいのですが、残念ながらこのような事例が案外多くて驚きます。このように貴社の存続にもかかわることですので、取引先が誠実かどうかを見極められるようにすることをおすすめします。

2.不誠実な経営者の特徴

 それでは不誠実な経営者の特徴が3つありますので、何となくでかまいませんので頭に入れておいていただけますでしょうか。

①「お友だち人事」を優先する
 取引先とはある程度の信頼関係が必要です。ただ、「取引」つまり「ビジネス」ですので、自社にとって不利になる商品・サービスを提案された場合には「No!」を言える関係でなければなりません。
 「お友だち人事」とは馴れ合いで終わり、持ちつ持たれつをしている間にその組織の成長が止まってしまうことも含まれています。人もそうですが組織も、成長するためには厳しさを乗り越えて「磨かれる」ことが必要です。仲が良いことは素晴らしいのですが、ダメなものは毅然と「ダメ」と言える関係でなければ、組織は腐ってしまいます。

②「耳障りのいい言葉」しか受け入れない
 私は正論を言いすぎるようです。しかし、これもクライアントのためを思ってのこと。それなのに、まったく受け入れないのは何のためのコンサルティングなのかと問いたくなります。
 耳障りのいい言葉は経営者を欺瞞にさせます。これは企業を破滅に導くことにつながります。
 まさに「小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり」。私だって厳しい言葉を言いたくありません。しかし、クライアントがより良くなるために必要なのです。ですので、心を鬼にしています。このような厳しい言葉をきちんと聴き、対応できる人は、信用できます。

③重要な判断を丁寧な説明なく、一言で終わらせてしまう
契約内容の変更といった重要な判断。通常であれば、お互い相談し合って決めます。それを一方的かつ、一言で終わらせるのは、貴社を取引先として尊重していないからです。本来、「ビジネス」は対等でなければなりません。会話のキャッチボールも成り立たないのであれば、その組織から離れることを強くお勧めします。立場の強さを笠に着る組織は、やがて信頼を失うからです。

こうした経営姿勢は、短期的には問題が見えにくくても、長期的には必ず取引先やパートナーに悪影響を及ぼします。

3.取引先を見抜く5つのチェックポイント(YES/NO形式)
 それでは取引先に問題が内科を見抜くポイントを5つ挙げます。

①重要な役職を「お友だち」や縁故で決めていないか?
②耳の痛い意見を言う人を遠ざけていないか?
③重要な契約や方針を「とりあえず」で決めていないか?
④数字や根拠よりも「雰囲気」や「勘」で動くことが多くないか?
⑤判断基準が「利他」より「私利私欲」になっていないか?
 
YESが2つ以上なら、その経営は“紙一重”で信頼を失う危険があり、やがて自社にもリスクが及びます。
補足ですが、利他の心を軸にする経営者こそ、信頼できる取引先です。逆に、私利私欲に偏る経営者を選べば、自社が重大な損失に直面するリスクがあります。私利私欲に走るからこそ、①~④に該当すると言っても過言ではないでしょう。

4.中小企業診断士からのアドバイス

 差し出がましいようですが、たくさんの痛い経験をした私から、3つのアドバイスをいたします。

①誠実さはまず自分から示すこと。
 「ビジネス」は対等な関係から始まります。取引先は皆様を映す鏡だと思っていれば間違いないでしょう。まずは、自らを省みることが大切です。小さな約束であっても、「約束」は「約束」。守り続けていれば、信頼の輪が広がります。

②耳の痛い真実を受け入れること。
 私は従来から上司であっても、間違っているものは間違っていると伝えてきました。間違っていて恥をかくのはその上司だからです。ケンカもしましたが、結局恥をかかずに済んだとお礼を言われるほどでした。このような耳に痛い事実を受け入れることで、大きなリスクを避けることができます。

③取引先選びでは「利他の心」を持つかどうかを基準にすること。
 私利私欲にまみれた取引先は、いつ貴社を「必要がなくなったから」と一言で切り捨てるかわかりません。自分さえよければ良いからです。それよりも、業界全体、地域全体にとって自社がどのように貢献できるかを考えられる経営者であれば、信用できます。お互いによきライバルであり、よき連携先であろうとするからです。
 

5.最後に

 経営は長期戦です。誠実な経営者と組めば未来は拓けますが、不誠実な相手を選べば、貴社の経営基盤が揺らぐ可能性があります。
 あなたが選ぶ次のパートナーは、利他の心を持っていますか?
 「誠実」であることは、人として一番優れた才能です。

【筆者略歴】
星 多絵子
病院の受付・レセプト点検から一般企業の経理、社会福法人での内部統制、会計事務所でのコンサルティングを経て、独立開業。さまざまな組織のコンサルティングをメインとして活動。
現在、東京薬科大学非常勤講師として「医療会計」を学生に伝えている。
中央支部of the year受賞2回。執行委員。広報部長。広報での写真撮影も行う。

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