Global Wind (グローバル・ウインド)

中央支部・国際部 船橋 竜祐

船橋:ベトナム現地で送出機関のお仕事を3年前からされているとお聞きしたのですが、具体的には、どのような業務をされていますか?

遠藤氏:私は営業部に所属しており、日本の企業、組合の方々の対応をしています。
ベトナムでの実習生面接の準備や対応であったり、日本でご訪問し意見交換させてもらったりして、より良い体制づくりをしています。

船橋:他の送出機関にも、遠藤さんのような日本人が業務に関わっているところは、ありますか?

遠藤氏:他の送出機関でも日本人がいるところはあると思います。また組合から出向できて送出機関で一緒に働いている方もいます。弊社でも組合からの出向者が常駐してくれているので、協力して出国前の実習生募集、教育を行い、より受入企業や組合の個別の要望にそったきめ細やかな対応ができています。また日本ベトナム間のより緊密な情報交換、意見交換ができています。

船橋:日本側の監理団体を辞めた後に、ベトナムに来て現地の送出機関での仕事を経験され、以前と『技能実習生制度』について、どのように観方が変わったでしょうか?

遠藤氏:基本的な見方は変わりません。日本の受け入れ組合側の時にベトナムの送出機関に求めていた事を実行できるようになり、採用や教育を理想に近づけていくこと、また、手数料の適正化、明確化などの、根っこの部分に接することで、ベトナム側から「技能実習生制度」のより良い運用を目指していけると思っています。
ただ、送出機関側の立場にたって、送出機関側が日本側の下請となっている傾向があることを感じました。私自身が組合にいた時は、送出機関と対等のパートナーとして協力し、より良い制度運用のための体制づくりを目指していましたし基本的な関係として必要なことと思います。送出機関の隠蔽体質や、組合に対してご機嫌取りをするやり方は、あってはいけない事だと思いますが、それは日本側も協力し合わないと作れないと思います。何よりも実習生たちに悪い影響を及ぼすことが一番残念な事だと思いますので。

船橋:現在300程の送出機関がベトナムにあるとのことですが、遠藤さんが従事されている送出機関「Javiet」の差別化ポイントや強みは何ですか?

遠藤氏:今は多くの送出機関が一生懸命に改革、改善をしているので、ある程度著名な送出機関はどこもそれぞれに良いと思います。その中でもJAVIETがこだわっている事を5点あげます。

1 , 人材の募集力
大学、専門学校の600校と企業1,500社との協力して人材募集しており、年間の20,000人以上の人材を募集することが可能です。また一次面談でスクリーニングも厳しく行っています。

2 , すぐに使える日本語会話を重視した日本語教育
入学から出国までの日本語授業の約7割のクラスが会話中心の授業で編成されていいます。さらに月一のオリエンテーションでは日本人と交流する実践の場を作っています。日本人教師2名が常駐し、適宜、臨時で日本人講師に来てもらい、できる限り生きた日本語を教えています。

3 , リーダーを育てる日本語学校を運営
派遣企業の日本語クラスとは別に、日本語学校を運営しています。そこの学生は、6か月から24ヶ月までのカリキュラムで学びます。
日本の文化や習慣なども教育し、将来の実習生のリーダーやエンジニア、留学等を目指して育てています。

4 , ベトナムでの学費や手数料の負担の緩和
日本に行くための手数料がネックで、行くことを諦める人を助けるために、手数料の支払いを日本に行った後に支払えるシステムを作っています。

5 , 3年の実習後の就職紹介
実習期間を満了してベトナムに帰った実習生たちに、日本で培った経験を生かせるように就職の紹介をしています。

船橋:良い送出機関と悪い送出機関を日本人が選別するには、何を観たらよいでしょうか?

遠藤氏:教育施設や寮の衛生面や、勉強中の実習生のマナー等を見れば、すぐに悪い送出機関は見分けられると思います。あとは社長と方針について話をするのも見分けるポイントになると思います。

船橋:これから技能実習生制度を活用することを検討している日本の企業経営者に、技能実習生を受けいれる際に注意してほしいことは、何でしょうか?

遠藤氏:技能実習生はベトナム人(その他東南アジア諸国)だから賃金が安いだろう、とコストダウンのために受け入れようと思っている企業は、受け入れはやめてほしいです。
そういう会社では、受け入れてもかなりの頻度でトラブルが起こりやすくなります。

船橋:ベトナムにも所謂悪質(法外な手数料、虚偽情報を利用しての人材募集等)な手法を使う送出機関が存在していると聞きますが、なぜ、ベトナムの若者達は、そのような悪質な送出機関を利用してしまうのでしょうか?

遠藤氏:ブローカーが介在し真実ではない情報を伝えるためだと思います。情報社会になったとはいえ、地方の人はブローカーから紹介された送出機関に登録するケースも多く、何も知らなければ手続きを重ねデポジットを支払ったりするにつれ引き返せなくなることもあるかもしれません。

船橋:日本側の監理団体と現地の送出機関での経験を通じて、両国の実態を観たうえで『技能実習生制度』をより良い制度にするためには、何をどのように改善したら良いでしょうか?

遠藤氏:今は採用企業が増え、技能実習生だけではなく就業ビザや留学ビザで、ベトナム人が日本へ行くチャンスが増えました。そのため募集も以前ほどはすぐに集められなくなりました。知人が日本にいたり、またインターネット等で、人材側も情報収集がしやすくなり、実習する企業の職種や給料、地域、送出機関、組合等を選択するようになってきました。そのため、より良い人材を採用し、教育し、また日本でも意欲をもって実習できるように、企業—組合(監理団体)—送出機関の3つの連携が今以上に必要になってくると思います。

 
遠藤氏へのインタビューを通してはっきりわかったことは、ベトナム側の若者達も「企業を選んでいる」ということ。ベトナムでのFacebook等SNSの浸透度は日本以上の面もあり、様々な日本の情報が行き交っている。例えば、とび職は肉体的にきついから最低賃金レベルでの待遇ならば、移動時間等の拘束のない製造業の方に行きたい。縫製業は残業も少なく手取りが少ない。沖縄県等地方都市は最低賃金が安いのでできるだけ最低賃金が高い都心に行きたい。このような諸々の情報を把握し、彼らも、「出稼ぎ先」を「選んでいる」のが実態だ。なかには、失踪したベトナム人が不法就労アルバイトを紹介しあう危険なFacebookも存在しており、彼らの貴重な生計のベースになっている。

今回のベトナム訪問で数社の送出機関へ訪問させて頂き、全ての送出機関のスタッフが【ベトナム側の若者達も「企業を選んでいる」】という実態を認識していた。しかし、それを正直に、日本側の監理団体や、技能実習生受入企業に伝えられる送出機関スタッフは、どれだけ居るのだろうか?という疑念が残った。

本来、技能実習生受入企業の社長が、「月給〇〇万円でこのような人材を採用したい」、と送出機関側に無理難題を突き付けたとき、「社長、このような激務の仕事に、この低賃金では採用は難しですよ」と正直に伝え、従来多かった「技能実習生を安く使おう」的な発想を糺していくのが、送出機関側の責務であると考えるのだが、そのようなことを正直に語れる送出機関は、どれだけあるのか?という疑念は今も残る。短期的に業績を出そうとすれば、「大丈夫です。お任せください!」と大見得を張り、裏でベトナム人応募者に、歪曲した情報で応募させる悪質な送り出し機関があるという情報を複数筋から得ているからだ。

また、今回のベトナム訪問で、訪れた送出機関の全てが「日本語教育レベルの向上」に真剣に取り組んでいた。遠藤氏が関わっているJAVIETは、数名の日本人日本語教師を抱え、独自の日本語教育プログラムを開発されているのは、魅力的である。送出機関の多くが、「日本人の日本語教師」の採用に困っていた。極端に言えば、有能な日本人の日本語教師は引く手あまた、と言っても過言ではないだろう。技能実習生受け入れ企業側で、最も困ることがコミュニケーションであるので、日本語教育力は大きな差別化要因になっている。

送出機関の日本語教室

01_日本語教室

実は、10年以上前から、技能実習生制度は「いずれ無くなるのでは?」と言われてきた。しかし、昨今の国会の審議を観ても、当面なくなるようには見られない。雇用期間の延長や、受け入れ職種の増加等の法改正が立て続けに起きていることからして、更に、この制度の社会的プレゼンスは大きくなることが予見される。

最後に、技能実習生制度の活用を検討されている方に、助言をさせて頂くとしたら、第一に重要なのが「監理団体選び」であり、その次に重要なのが「送出機関選び」であると私は考えている。良質な監理団体であれば、常に良質で優れた送り出し機関との提携を模索しているので、結果的に、良質な送出機関を活用している可能性が高いからだ。

日本の外国人材受入に関心ある方に、今回の記事が何らかの参考になれば、幸いである。

筆者プロフィール
船橋 竜祐 (ふなばし りゅうすけ)
ダイバーシティコンサルティング株式会社代表取締役
ジャパンベトナムコンサルティング株式会社常務執行役員
中小企業診断士、宅地建物取引士
海外人材系コンサルティング企業、学術出版社営業職(北米市場を担当)を経て2016年に独立し、現在に至る。
東京外国語大学東南アジア課程卒業、法政大学経営大学院修了。