平成28年7月「中小企業等経営強化法」が施行されました。この法律の趣旨は、労働力人口の減少、企業間の国際的な競争の活発化等の経済社会情勢の変化に対応し、中小企業・小規模事業者・中堅企業の経営強化を図るため、事業所管大臣が事業分野ごとに指針を策定するとともに、当該取組を支援するための措置等を講ずるというものです。

実際には、各事業分野の特性に応じた経営力向上のための指針を策定し、経営力向上計画の認定と支援措置、認定経営革新等支援機関による支援により、中小企業者の経営強化を行っていくというのがこの法律の概要です。この中で、特に新たな取組であるのが、経営力向上計画の認定と支援措置で、この経営力向上計画はこれまでの認定と比べて非常に簡素化されているという点が特徴です。今回のコラムでは、経営力向上計画の策定及び申請方法と、認定を受けた場合の支援措置などについてご説明します。

1.経営力向上計画の概要

経営力向上計画は、人材育成や財務内容の分析、マーケティングの実施、ITの利活用、生産性向上のための設備投資等の「経営力向上」の取組を応援する計画です。基本的に申請書は2枚と簡素化されていることが特徴です。申請書類の提出先は、事業者が経営力を向上させたい事業分野の事業所管大臣宛になります。

2.認定対象となる中小企業者等の範囲

経営力向上計画認定の対象となる事業者は、中小企業基本法で定められている中小企業者とは少し異なります。同法で定められている中小企業者は対象ですが、それに加えて、

中堅企業・その他法令で定める法人も対象となっています。これらの定義は、資本金10億円以下の会社又は従業員数2000人以下の会社及び個人であり、医業・歯科医業を主たる事業とする法人(医療法人等)、社会福祉法人、特定非営利活動法人についても、資本金もしくは出資の総額が10億円以下又は従業員数2000人以下(資本・出資を有しない場合)の要件を満たす場合は、対象となります。

3.申請様式の記載項目

前述のとおり、記載すべき申請書は2枚です。記載項目は基本的な事業者の名称等、経営力を向上させたい事業分野と事業分野別の指針(指定のページからダウンロードします)、実施時期、現状認識、経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標、経営力向上の内容(具体的取組)、経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法、経営力向上設備等の種類となっています。主要なポイントについては、以下でご紹介していきます。

4.具体的な記載内容

(1)現状認識

現状認識の項目では、「自社の事業概要」、「自社の商品・サービスが対象とする顧客・市場の動向、競合の動向」、「自社の経営状況」の3点があります。

「自社の事業概要」には、自社が行っている事業内容について、事業構成や売上高などを含めて概要がわかるように記載します。「自社の商品・サービスが対象とする顧客・市場の動向、競合の動向」には、自社の商品・サービスについて、顧客の数やリピート率、主力取引先企業の推移、市場の規模やシェア、競合他社との比較等における、自社の強み・弱み等を記載します。「自社の経営状況」には、売上高増加率、営業利益率、EBITDA有利子負債倍率、営業運転資本回転期間、自己資本比率等について記載します。これらの経営指標の分析にあたっては、財務状況分析ツールの「ローカルベンチマーク」を使用してください。ローカルベンチマークは、企業の経営状況の把握、企業の「健康診断」を行うためのツールとして開発されました。「参考ツール」を活用して、「財務情報」と「日財務情報」に関する各データを入力することにより、企業の経営状況を把握するものです。

(2)経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標

3年から5年計画での目標数値と現状数値、その伸び率を記載します。ここで用いる指標は、事業分野別指針がある場合にはその指標とします。事業分野別指針が定められておらず、基本方針に従って策定する場合は、労働生産性を指標として用います。

(3)経営力向上の内容

経営力向上計画において、実際にどのような取組を行うかということを具体的に記載する欄です。現状認識等を踏まえ、事業分野別の指針(定められていない場合は、基本方針)を参照して、経営力向上のために取り組むことを取組みごとに具体的に記載します。行おうとする実施事項が新事業の場合は、「新事業活動への該非」欄に○をします。

(4)経営力向上をじっしするために必要な資金額及びその調達方法

実施事項ごとにその事項を実施するのに要する資金について、その部分の具体的な使途・用途を記載します。また、自己資金、融資、補助金等、それぞれに資金調達方法も記載してください。

(5)経営力向上設備等の種類

固定資産税の軽減を活用する場合において、対象となる設備の名称・型式、数量・金額などについての記載を行います。固定資産税の軽減措置については後述します。

5.認定により受けられる支援措置

経営力向上計画を受けた際に得られる支援措置には、固定資産税の軽減と各種金融支援があります。金融支援の種類には、「商工中金による低利融資」、「中小企業基本法の特例」、「中小企業投資育成株式会社法の特例」、「日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット」、「中小企業基盤整備機構による債務保証」、「食品流通構造改善促進機構による債務保証」があり、固定資産税の軽減は、3年度分の固定資産税に限り、該当の機械装置にかかる固定資産税を1/2に軽減するというものです。固定資産税の軽減を受ける場合においては、対象とする機械装置の情報を、前述の「経営力向上設備等の種類」欄に記載するとともに、購入元の設備メーカーを通じ、工業会などから対象とする機械装置が対象設備であるという証明書を取得し、申請書に添付する必要があります。

6.経営力向上計画の策定にあたって

経営力向上計画が認定されることで上記のような支援措置を受けることが可能ですが、それ以上に、計画づくりを行うことによって自社の現状を把握するとともに、目指すべき方向性や実施すべき取組み等が明確になることが重要です。しっかりとした計画づくりを行うことは、自社が稼ぐ力を身につけることにつながります。是非、社内での計画づくりに取り組んでいただければと思います。計画づくりがスムースに進まない場合や、計画づくりに踏み込むことができない場合などは、お近くの経営革新等支援機関にご相談するのも一つの手段です。また、経済産業省が設置しているよろず支援拠点では、無料で経営に関する様々な相談対応を行っています。東京都内の事業者様の相談先は、東京都よろず支援拠点になりますので、一度相談されてみてください。

 

【略歴】

金子敦彦

飲食店及び大手小売店での接客指導、マーチャンダイジング、法人新規開拓営業などを経験後、2011年に独立。現在は、東京都内の飲食業、小売業、サービス業などを中心にコンサルティングを行っています。店舗の売上拡大、他店舗化のための仕組みづくり、新事業開発支援など、成長ステージに合わせた支援を行います。