西原 寛人

● はじめに
 今回は組織分析の第一歩として、自分の一番身近で最も影響の大きい「家族」をテーマとして取り上げます。家族分析を事例として取り上げるのは、家族関係の良否が、個人として仕事や経営にかなりの影響を与えるだけではなく、特に小規模企業の場合には、家族が直接社員であるか、バックアップする立場であるかという形は別として、企業の経営と言う観点でも非常に重要な要素であると思うからです。「家族」を分析するにあたり、実践的行動パターン分析学である『サイグラム』を使い考えてみます。

●サイグラムによる意思決定の3類型について
サイグラムでは意思決定、行動、価値観、表現方法などの違いにより人を大きく知・情・意の3つのタイプに分類して考えることを基本にしています。以下に3類型の特徴を説明します。
(意思決定の3類型の詳細に関しては、当コラム2012年5月号 http://rmc-chuo.jp/manager/column/20125_3.html をご参照ください)

①「知」を優先するマインドグループ
マインドグループの意思決定の軸になるのは、「考え方」の筋道です。自分の「考え方」を軸として、感じ方や動き方が計算されています。常に筋道だった考え方を軸にして、見通しとバランスを重視するタイプ。自分が納得できるか否かが行動基準となっています。

<特徴>
・意思決定のための「材料を収集すること」を優先する
・行動を起こすための「確かな方向性の設定」を大切にする
・決断は「すべての筋道の計算ができた」とき(確実性重視)
・周りがどうであっても「自分が納得できたか否か」が重要

②「情」を優先するフィーリンググループ
フィーリンググループの意思決定の軸になるのは、「感じ方」です。物ごとの感じ方を、生活と行動の中心におき、これを軸として考え方や動き方がコントロールされています。感情や感性、情緒的な素質にすぐれ、意思決定においても感じ方を優先するタイプ。好き嫌い、気が進むか否かということが行動基準になっています。

<特徴>
・その場の「雰囲気」やその時の「気分」を優先させる
・「好き・嫌い」という感情を優先させる
・気が「進む・進まない」という気分を優先させる
・周りの人が「どう思っているのか?」ということが気になる

③「意」を優先するアクティブグループ
アクティブグループの意思決定の軸になるのは「意志」(動き方)です。感じ方や考え方は、その強烈な意志に追随しています。あれこれ考えるよりもまず「動くこと」を優先するタイプ。目標に向けて強い意志を持ち一直線にスピーディーに行動します。

<特徴>
・机上の空論よりも「まず実行」という行動力を優先させる
・「努力・行動」に価値を置き、何よりもそれを評価する
・「目標を勝ち取るため」に行動する(達成感を得たいため)
・周りの人の意見より「自分ならどう動くか?」という心理

●3類型の関係性について
 マインド、フィーリング、アクティブの3類型の人たちが集まり組織となった場合にその関係性には一定の法則があることがわかっています。この関係性をサーキュレーションと呼んでいます。

<サーキュレーションの基本原則>
①同じ類型同士であれば理解しやすい
②違う類型同士の場合その人間関係には一定の規則性がある
・マインドはアクティブの行動が理解しやすい。
アクティブから見るとマインドは理解しにくい(マインドにペースを握られる)
・アクティブはフィーリングの行動が理解しやすい
フィーリングから見るとアクティブは理解しにくい(アクティブにペースを握られる)
・フィーリングはマインドの行動が理解しやすい
マインドから見るとフィーリングは理解しにくい(フィーリングにペースを握られる)

理解しやすい方向性にある人(正方向)に対しては自分の意思が伝わりやすく、逆に理解しにくい方向性にある人(逆方向)には振り回されやすいという傾向があります。つまり逆方向にある人に対してはストレスを感じやすいということも言えます。

<3類型の関係性>

fig01

●家族分析の事例
家族分析の事例として、A家の例を紹介します。
この家族をサイグラムによるタイプ分類で分析すると、父・母・長男がフィーリング、次男のみマインドという特徴的な家族であることがわかりました。この家族は3名がフィーリングということで、日常の行動や意思決定などフィーリングの特質が色濃く反映された家族であることが容易に推測されます。

fig02
すなわちフィーリングの特徴であるその場の「雰囲気」やその時の「気分」を優先させる行動をとりやすいと考えられます。何か行動を起こす時にも事前に計画を立ててそれをきちんと実行する事よりも、その場の「気分」や「感情」を優先させて計画した行動が変わる可能性があります。またフィーリングは仕事以外の場面では時間に対して多少ルーズな面が出やすいという特徴があります。
これは計画だてて思考し、先の見通しを立てないと行動しにくいマインドである次男にとっては理解できない行動に映ります。また3類型の関係性の上でもマインドである次男はフィーリングの考え方が理解できず、フィーリングの行動にペースをつかまれてしまうという関係性にあります。
この家族は自分たちと次男のタイプが違うということを理解し、マインドである次男の行動特性に合わせて接していかないと、次男は家族に対してストレスを感じてしまう恐れがあります。

次男が小学生であることを考慮してのご両親への具体的アドバイスとしては
・起床、食事、入浴、就寝といった基本的な生活リズムを一定にする。
(フィーリングは時間に対して多少ルーズになりやすい)
・外出する際には、「明日は○○に行くから家を△△時に出発するよ」というように事前に説明して次男が計画をたてられるように配慮する。
(マインドは先の見通しが立っていない段階では行動しにくい)
・何かをやらせる際には、なぜやらなければならないかをきちんと説明して、次男が完全に納得するまで話し合う。
(マインドは他のタイプ以上に自分が理論的に完全に納得していないことは行動しにくい)などがあげられます。

今回は特徴的な家族を事例として説明しましたが、家族でも会社でも良好なコミュニケーションをとるためには
①自分を知ること
②相手を知ること
③自分と相手の違いを知ること
④相手との接し方、付き合い方を知ること
⑤相手のことを認めること
というステップが重要になります。そのステップを知って周りの家族と接することが、より良いコミュニケーションをとる第一歩となると思います。

●まとめ
以上、家族分析におけるサイグラムの活用について見てきました。家族には何十年かけて培ってきた歴史があり、サイグラムだけで家族の問題を解決して良好なコミュニケーションが取れるようになる、などとは決して言うつもりはありません。しかしサイグラムによるタイプ分類を知ることで、違った角度から家族の考え方、行動特性を考えるきっかけになればと思います。
家族は基本的な組織単位です。まず家族の関係性を考えてみることは企業の組織分析、組織の活性化の第一歩になるのではないかと思います。

<サイグラムとは>
サイグラムとは一般社団法人日本パーソナルコミュニケーション協会代表理事、武蔵野学院大学准教授 吉井伯榮氏が創案した実践的なコミュニケーション・メソッドです。
サイグラムを学ぶことで対人関係のストレスが劇的に軽減されるだけではなく、家族の関係、会社内での同僚・上司・部下との関係改善にも大きくメリットを感じさせるものです。また中小企業診断士としても「組織改善」「営業ツール」などに応用できるメソッドとして知っておくべきものと実感しています。

*「サイグラム」は商標法により保護された登録商標です。

<参考文献>
「サイグラム 史上最強のコミュニケーション・メソッド」吉井伯榮著 成甲書房(2013年)
 

■ 西原 寛人
東京都中小企業診断士協会中央支部 研究会部 部長
東京都中小企業診断士協会認定「サイグラム」コミュニケーション研究会 幹事
中小企業診断士