西原 寛人

<はじめに>
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)が2016年大きく改正されました。その改正により一定の条件を満たせばスマホで撮影した領収書の電子データがあれば、領収書の保存が不要となりました。この改正は、それまでの紙をベースにして組み立てられてきた経費精算の業務フローが大きく変わり、なかなか改善が進んでいなかった企業の経費精算業務の削減にむけての大きな転換点になる出来事であると思います。

<e-文書法と電子帳簿保存法>
e-文書法とは正式には「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」及び同整備法のことを指し、2005年4月に施行されました。それまで紙で保存が義務付けられていた文書や書類に関して電子的な保存を認める法律で2001年にスタートした政府のe-japan戦略の一環として制定されました。
e-文書法は各省庁が主管している各種文書、書類の電子保存を認める原則を謳った原則法で、具体的な保存のルール等は別途法律や通則、ガイドラインで定められています。
この中で財務省・国税庁が管轄する国税関係の帳簿・書類に関してのルールが定められているのがいわゆる「電子帳簿保存法」となります。
本稿ではどの企業でも多くの時間をかけている従業員の経費精算業務削減に関するインパクトについて考えてみたいと思います。

<経費精算業務におけるメリット>
従業員の経費精算業務は交通費精算、出張旅費精算、接待交際費精算、物品購入など多岐にわたります。出張・経費管理、請求書管理等のクラウドサービスを提供している株式会社コンカー社によると、ひとりのサラリーマンが経費精算にかけている生涯日数は52日、人件費換算すると144万円にのぼり、特に月額10万円以上の経費を精算しているサラリーマンに限定すると、生涯日数はなんと100日、人件費換算で279万円になるとレポートしています
経費精算には領収書の現物が必要で、領収書を個人で保管して、提出台紙に糊付けするなど紙の取り扱いに多くの時間をかけています。また郵送のコスト、保管のコストなどもかかります。これまでは経費を精算する従業員(営業等)もそれを承認し支払処理を行う従業員(経理等)も紙の領収書が手元にあることで初めて経費精算の業務を行う事ができました。
出張を例にとると、従業員は出張中の支払った経費を手帳等に記録しておくと共に、領収書を財布の中に保管しておき、出張が終わった後、会社に出社した際に改めて領収書と記録を見ながら経費精算の手続きをしていると想像されます。実際には経理からの催促により締切日の直前に一か月分の経費精算を半日がかりでまとめて処理している人も多いのではないでしょうか?
スマホ撮影による領収書の保管が可能になれば、従業員は出張の最中に領収証をスマホで撮影することで経費精算の申請が出張先で行う事が可能となり、それまで月次の一大イベントとしてまとめて実施していた経費精算業務が、スキマ時間を活用して進めることが可能となります。承認者側も領収証の画像を確認して承認ができるので、事務所で紙の領収書をチェックしなくても外出先でも承認が可能となります。
会社に戻らなければ精算できなかったものがどこでも申請、承認が可能となり、時間と空間の制限から解放されることが大きなメリットになると思います。もちろん従業員が立て替えた会社の経費を早く支払うことにもつながります。

<電子帳簿保存法の適用にあたって>
スマホでの領収書の電子化を行うに当たっては、クリアしなければならない要件があります。そのポイントをまとめたものが以下の表となります。

スキャナ保存要件一覧表(真実性の確保要件のみ抜粋)

表
*タイムスタンプ:電子データがある時刻に確実に存在していたことを証明する電子的な時刻証明書

2016年の電子帳簿保存法の改正により
・スキャナについて「『原稿台と一体型』に限る」要件廃止
・領収証の受領者等が読み取る場合の要件を整備
されたことにより、従来会社備え付けのスキャナで受領者以外の者がスキャンすることが前提であったものが、受領者本人が場所を限定せずスマホで読み取ることが可能となりました。
実際に企業でこの解像度要件やタイムスタンプ要件などを満たすためには、改正電子帳簿保存法に対応した経費精算のシステムを使用することが前提となります。また実際の導入にあたって難易度が高いのが受領後3日以内にタイムスタンプを付与しなければいけない点と領収書の廃棄にあたっては定期検査を行わなければならないという2点だと言われています。
受領後3日以内とは、休日は関係ないので、金曜日に受領した領収書は月曜までに、受領者が署名した領収書にタイムスタンプを付与する必要があります。3日以内に本人がタイムスタンプを付与できなかった場合には、受領者本人以外の人が最大5週間の間にスキャナで読み込み、タイムスタンプを付与する必要が出てきます。
実際に受領した領収証を廃棄するためには、⑦の事務処理規定の中で定期検査を行う事が求められています。この定期検査に関してはその頻度や内容が明確に規定されていませんので税理士や会計士と相談の上定期検査を実施して領収書の廃棄を行う必要があります。
このようなシステム的、業務的な要件をクリアして電子帳簿保存の申請を行います。

<導入にあたり準備すること>
領収書の電子保存を行う場合、保存開始の三か月前までに、所管税務署長等に下記書類を提出する必要があります。
・国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/3030_01.htm
(添付書類)
・保存を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類
・保存を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し)
・申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類

領収書の電子保存を行うためには、電子帳簿保存に対応したコンピューターシステムの導入が前提となります。システム導入にあたっては前述のコンカーはじめ領収書の電子保存に対応した経費精算システムが多数ありますので、システム起点で調査されるのが導入の近道かもしれません。

<まとめ>
経費精算に代表される間接業務に関しては、直接業務と異なりこれまで業務改善の手が入っていない企業が多いのではないかと思います。一回あたりの業務工数はそれほどかからないとしても、その関与人数の多さと頻度で結果的に多くの工数がかかっています。他社との差別化や付加価値を生み出さない間接業務はできる限り少なくして、本業のビジネスにその工数を振り向けたいところです。今回の領収書電子化の流れは、間接業務を見直す良いきっかけとなると思います。領収書の電子化は「働き方改革」そのものだと思います。従来「紙」という制約に阻まれていた業務の流れを大きく変え、より働きやすい環境を整える良いチャンスとなると期待しています。

(参考資料)
・電子帳簿保存法はこう活用する!領収書電子化完全ガイド(株式会社コンカー)
・THINK!別冊No.9 「戦略的コストマネジメント」(東洋経済新報社)
・国税庁HP

(プロフィール)
西原 寛人(にしはら ひろと)
経済産業大臣登録中小企業診断士
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員 研究会部部長
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 研究会部副部長