濱口 誠一

「社長、今期の売上高は1000万円、経常利益は90万円です!」
 
 さて、質問です。この会社の業績は好調でしょうか?
 当然、これだけの情報では、好調かどうかは判断できません。情報が不足しているから、ですが、では、どのような情報があれば、好調・不調を判断できるでしょうか?
 会社経営において、会社がどのような状況になっているのか、数字で実態を捉えることは重要ですが、数字に苦手意識を持つ人は多いのも事実です。しかし、数字を見る、ということは決して難しいことではありません。今回の専門家コラムでは、数字に強くなるための3つの視点をご紹介します。

1.比較する
 数字を絶対値のみで評価することは困難です。そのため、他の数字と比較することで、その善し悪しを判断します。

1)過去との比較
 対前年、対前月といった過去の数字と比較します。過去と比べて伸びているのかどうか?という視点で数字を捉えます。

2)他との比較
 会社全体であれば競合他社との比較、が考えられます。また、この視点も絶対値のみで比較するのではなく、「競合と対前年の成長率で比較したらどうか」という過去の比較との視点と組み合わせることで、より多角的な分析が可能となります。

2.分解する
 数字をそのまま見るのではなく分解することで、より内容が見えてきます。また、分解する際には、四則演算、で考えるとよいでしょう。つまり、足す(+)、引く(-)、掛ける(×)、割る(÷)の視点で分解するのです。
 例えば売上高は「客数×客単価」という掛け算の視点で分解できます。さらに、客数は「既存顧客+新規顧客」という足し算の視点で分解できます。このように一つの要素を分解していくことで、内容をより詳細に把握することができます。具体例で考えてみましょう。

前期売上高 : 800万円(客数400名×客単価2万円)
当期売上高1:1000万円(客数200名×客単価5万円)
当期売上高2:1000万円(客数1000名×客単価1万円)

 1の場合は客単価増加も客数低下、2の場合は客数増加も客単価は低下しています。このように、売上高が前年より成長していたとしても、問題点が潜んでいる場合もあります。さらに、売上高の金額自体が同じだったとしても1と2のような、それぞれの異なる問題点を抱えていることもありえます。そのため、特に重要と思われる数値については、過去等と比較することに加えて、「分解」して内容を把握して、問題点の有無を検証する必要があるのです。
 
3.組み合わせる(経営指標の活用)
 項目を複数組み合わせてみることで、さらに詳細に分析できるようになります。次のケースで考えてみましょう。

前期の売上高 800万円、前期の経常利益80万円
当期の売上高1000万円、当期の経常利益90万円

 売上高と共に経常利益も伸びており、成長という観点では問題がないようにも見えます。では、この2つを組み合わせて考えてみましょう。経常利益を売上高で割った売上高対経常利益率は、10%から9%に悪化しています。つまり、利益率を低下させる要因があったということであり、原価構造に問題がある可能性があります。「過去との比較で絶対値が伸びている」状態だからといって、問題点がないとは限らないのです。

 ここでさらに分析するためには、前述の「分解する」という視点を活用できます。経常利益をさらに分解することで(*)、さらに要因を把握することができます。
*経常利益の補足説明
 売上高から売上原価、販管費を引いて、さらに営業外収入・費用を反映させたものが経常利益です。また、売上総利益、営業利益という観点から経常利益を分解することもできます。

     売上高 … 本業による収入
―)  売上原価 … 売上に直接対応する費用。仕入費用や製品の製造費用など
  売上総利益 … 商品や製品による利益
―)    販管費 … 売上に直接対応しないが事業に必要な費用。人件費、家賃など
    営業利益 … 事業による利益
+)営業外収入 … 本業以外での収入。家賃収入や株式の配当金など
―)営業外費用 … 本業以外での支出。金融機関に支払う支払利息など
     経常利益 … 会社としての利益

 以上、3つの視点をご紹介しました。これらの3つの視点により、会社の実態を数字で捉えることができ、問題点の早期把握、問題点の深刻性の判断に役立ちますので、是非、ご活用ください。

■濱口 誠一(はまぐち せいいち)
(一社)東京都中小企業診断士協会 会員部部員
同中央支部 執行委員、ビジネス創造部、青年部部員。
学生時代から行う英語ディベートでは全国大会優勝経験あり。現在は東証一部上場のIT系持ち株会社の経営企画部マネージャーとして、業績管理や業績評価等の「数字を使った経営の見える化、仕組み化」に従事。
【経営支援実績】
全国規模のビジネスコンテストのビジネスアドバイザー、創業補助金支援(採択率75%)
【研修・セミナー実績】
中小企業庁講演中小企業経営診断シンポジウム優秀賞受賞、中小企業診断士向け研修講師セミナーのパネルディスカッションコーディネーター、調剤薬局全国チェーンのマネージャー向け事業計画策定研修、東急不動産ビジネスエアポートにてビジネスモデルセミナー、東薬工人事担当者向け顧客経験価値セミナー、
中小企業診断士向けファシリテーションセミナー、ビジネスパーソン向けロジカルシンキングセミナー等