昨年3月以降、コロナ禍において顧問先の事業再生や私的整理に追われている日々である。ある日、ネット上で採用について調べていると「アメリカ人社長が日本人採用で用いる評価基準が興味深い」(BizHint)というタイルが目に入った。読み進めると確かに興味深い三つの要素が掲げられていた。
 1.内発的動機付け
 2.問題解決能力
 3.不確実性への耐性

 続きを読むためには、Web上でBizHintの会員登録が必要とあったため、会員登録を行わずに自分で上記の三要素を調べてみると新しい気づきがあった。

1.内発的動機付け
 内発的動機付けは個人の内面の好奇心や関心がモチベーションとなるもので、生産性の向上や創造力の発揮を期待できる。
 しかし、各人の内面は異なり、職場においてうまく内発的動機付けを行うことは簡単でないため、悩んでいる経営者及び管理職が多い。
 これに対し、外発的動機付けは報酬やペナルティーを与えることによる動機付けなので比較的容易に実行でき、事業再生の場面でも活用しているケースが多い。
 企業組織全体の効率を考えるならば、内発的動機付けと外発的動機付けを使い分けることも考えられる。例えば、創造力が必要な企画等については内発的動機付けを活用し、ルーティーン的な業務については外発的動機付けの活用等が考えられる。

2.問題解決能力
 問題解決能力とは、問題として挙がってきた事柄の状況を正確に把握した上で、その問題を解決するためにはどうしたらよいのか、解決策を考えて実行し、問題を解決していくことができる能力と考えられる。事業再生においてはPDCAサイクルとして活用している。
 仕事や人間関係、日常生活などの場面で起きる問題に対して迅速に解決するためには、問題解決能力が必要であり、コロナ禍においてなおさら重要である。
 ただし、経営者及び管理職においては、問題を認識する力、解決策を考える力、解決策を実行する力がそろって初めて、問題解決能力があるというのが一般的な定義ではないだろうか。

3.不確実性への耐性
 そもそも人は、予測のつかないものや不可思議なものを避け、確実なものを求める傾向がある。
 よって、私自身も苦痛を避け、安定を保つために、可能な限り不確実性を排除し、何かしらの確実性のある答えを常に探し求めているように思う。
 また、時には事業モデルを数値化して、不確実性から安心へ転換している気がする。
 一方で、ビジネスにおける「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性を主張する学者、ロバート・フレンチとピーター・シンプソンはがいる。彼は、「無知の空間を無理やり知識で埋めたい誘惑に抵抗できるのなら、新しいアイデア、考え気づきを生み出せる」と主張している。
 コロナ禍において「不確実性」による影響が高まる今日、「拙速な理解や解決をするのではなく、謎を謎として興味をいだいたまま、宙ぶらりんのどうしようもない状態を耐え抜く力。その先に発展的な深い理解が待ち受けていると考える力」=「ネガティブ・ケイパビリティ」という能力こそが、コロナ禍における経営者及び管理職へ問われているのではないだろうか。

 以上の内容を書いたメモを顧問先の若い経営者へ見せると、「デジタル原本があれば頂けないか?」と言われ、その日にメールで送信した。
 翌日、メールには「このコロナ禍において(経営者として)必要な要素であり、自分の戒めとしたい」との返信があった。
 そう言われて、改めて見直してみると、まさに今必要な能力ではないかと気付かされたのと同時に、この三要素を持ち合わせた人材がいたら学歴や老若男女を問わず、私の会社で採用したい、と思ってしまった。

【略歴】
 加藤 伸一(かとう しんいち)
 東京都中小企業診断士協会
 中央支部渉外部・執行委員