国際部 井下 晶雄

1.はじめに

令和6年1月末に厚生労働省より公表された調査結果※1によると、日本で働く外国人労働者の数は200万人超となり、過去最高を更新しました(対前年増加率12.4%)。中でも、インドネシアの増加率は56%と最も高く、日本で働くインドネシア人の数は近年大きく増加しています(下表1参照)。また、インドネシアは、市場規模や高い成長性などを背景に、事業拡大先としても注目を集めており、今後、国内外を問わず接点をもつ機会が増える国の一つと言えるのではないでしょうか。
日本にとってより身近な存在となりつつあり、かつともに働く機会の増加が見込まれる国、インドネシア。仕事に一緒に取り組んだり、同じ職場で働くにあたって、相手の国の事情や文化的背景などを理解することはとても重要です。本記事では、近年ますます働く場において身近な存在となりつつあるインドネシアを取り上げ、基本情報や各種統計データなどを用いてその特徴を整理していきたいと思います。

※1:厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)』

1_【表1】日本における外国人労働者数(インドネシア国籍)の推移

2.基本情報

インドネシア(正式名称:インドネシア共和国)は東南アジア南部に位置する国で、17,000以上の島々からなる島嶼国家として知られています。面積は日本の約5倍、人口は世界第4位とASEAN最大規模です。主な基本情報は以下のとおりです。

 

2_【表2】インドネシア基本情報

 

3.経済状況

つづいて、インドネシアの経済状況を確認しましょう。
インドネシア経済はコロナ禍の影響などにより一時減速したものの、その後は回復傾向にむかい、2022年の実質GDP成長率は5.3%となりました。また、足元でも堅調な推移をみせており、2024年2月にインドネシア中央統計局が公表した結果によると、2023年10-12月の実質GDP成長率は前年比+5.04%、通年での成長率は+5.05%となる見通しとなっています。

 

3_【表3】インドネシアにおける実質GDP成長率の推移

 

次にインドネシアにおける輸出入の状況について触れたいと思います。
JETROの調査結果※2によると、2022年のインドネシア最大の貿易相手国は輸出・輸入ともに中国で、輸出額の22.6%・輸入額の28.5%をそれぞれ占めていました。これはASEAN全体との取引金額よりも大きいものです(ASEANの占率は「輸出:20.9%」「輸入:21.1%」)。ちなみに、日本は輸出額の8.5%・輸入額の7.2%を占める水準であり、中国ほどではないものの、インドネシアにおける重要な貿易相手国の一つとなっています。

※2:JETRO「インドネシアの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)」(2023年11月15日公開)

4.個別トピック

最後に、インドネシアにおけるその他の個別トピックについて、足元の事例などもいくつか交えながら紹介します。本記事では「ともに働く」ことをテーマにインドネシアの最新事情を取り上げていますので、労働・働き方関連のトピックを中心にみていきたいと思います。

(1)労働時間

まずは、インドネシアにおける平均的な労働時間を確認しましょう。
労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2023」によると、インドネシアにおける2021年の週労働時間は「36.5時間」で、日本(36.6時間)と同程度の水準となっていました。インドネシアでは、労働法により、週の労働時間が40時間※3に定められていることから、一週間あたりの労働時間がある程度抑制されていることが読み取れます。

※3:インドネシアの法定労働時間は、週5日勤務の場合は「1日8時間以内かつ週40時間以内」、週6日勤務の場合は「1日7時間以内かつ週40時間以内」と定められています。

(2)宗教事情と働き方

「2.基本情報」でみたとおり、インドネシアはイスラム教を信仰するムスリムの方が多い国です。信仰心には個人差があるため必ずしも全員が厳格な行動をとるわけではないとも言われていますが、ともに働くにあたっては相手の信仰する宗教への配慮は不可欠です。今回は特に一緒に働く際に知っておく・注意する必要がある知識として、「礼拝」と「食事」の2点に触れたいと思います。
まずは礼拝についてです。ムスリムの方は基本的に1日5回礼拝することが義務となっています。タイミングは、日の出前・お昼・午後(3時ごろ)・日没時・夜の5回で、特に働くうえでは就業時間と重なりやすい「午後(3時ごろ)・日没時」の礼拝時間を意識する必要があります。1回の礼拝時間は5~10分程度と言われていますが、ミーティングや電話の時間に注意する、中抜け等を認めるなどの配慮が求められます。
食事についても注意が必要で、代表的なものは「アルコール」と「豚肉」です。働く中で、ランチやディナーミーティング、懇親会などの機会も出てくると思います。何気なく勧めたものが相手にとってNGの場合もありますので、ともに食事をする場合は最低限の知識としておさえておきたいところです。

(3)交通渋滞と在宅勤務

「ジャカルタの公務員2か月間にわたって在宅勤務を実施」
これは、大気汚染が深刻化するインドネシアの首都ジャカルタにおいて、交通渋滞の緩和を目的に2023年8月から10月の2か月間にわたって実施された取り組みになります。このニュースを聞いた際、昔訪問したジャカルタの光景を思い出しました。当時からめざましい発展を遂げていたジャカルタでは、その分、周辺人口も多く、交通渋滞が頻繁に発生していました。そのような交通事情の中で在宅勤務に取り組むことは、環境問題のみならず、労働環境の面でも大きな意味を持つものだと思います。今回は公務員を中心に施策が展開されましたが、さらなる広がりを見せるのか、今後の動向が注目される取り組みの一つです。

(4)首都移転

インドネシアでは、首都をジャワ島のジャカルタからカリマンタン島のヌサンタラに移転する計画が進められています。2024年前半に対外的に首都移転を宣言すると見込まれており、移転費用の確保、インフラ等の整備、環境保全など様々な課題がある中でどのように計画が進められるのか、注目が集まっています。
実際に首都移転が実現した場合、労働面におけるインパクトも相当大きなものになると考えられます。現在ジャカルタには約1,000万人が、ジャカルタのあるジャワ島には人口全体の半分超にあたる約1億5,000万人が生活しています。ジャカルタから新首都ヌサンタラまではかなりの距離があり、一部の人口のみが移動する場合でもその規模や負担は相当なものになると想像できます。
コロナ禍以降、「場所にとらわれない働き方」が一層進められていますが、一方で対面でのコミュニケーションを重視するケースもまだ多くあります。首都移転が働き方に与えるインパクトをどのように取り込んでいくのか、今後の動向を注視したいと思います。

5.おわりに

本記事では「ともに働く」ことをテーマにインドネシアの基本情報から労働・働き方関連の個別トピックまで触れてきました。ともに働くにあたって、相手とコミュニケーションをとることは必要不可欠であり、コミュニケーションの際には、相手の国の事情や文化的背景を理解しておくことは大変重要なことです。こうした理解は相手に対する敬意にもつながります。
今回取り上げた内容はインドネシアに関する極々一部の情報に過ぎませんが、皆さんの同国への理解を深める一助となれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
記事上の各データ・解説は作成時の公開情報等に基づき、編集・記載したものですが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、本資料の情報を利用されたことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。

 

■井下 晶雄(いのした まさお)

2009年中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属。
国内生命保険会社にて、営業企画、人事企画、商品開発等の業務に従事。現在は中小企業経営者向けWebコミュニティサイトの企画・運営を担当。