「働き方改革」が大企業ではすでに施行され、中小企業でも一部施行されました。
制度としては、長時間労働だけでなく、有給休暇の取得や、多様で柔軟な働き方などいくつもの項目があります。
日本の労働生産はずいぶん前から低いと言われておりますが、その水準は経済大国とは思えないほどです。(OECDの調査データによると、35か国中20位)
残業により、なんとか経済大国の地位を守ってきた状況ともいえるかもしれません。
それに追い打ちをかけるよう、少子高齢化に伴う労働人口の減少が着実に進んでいます。今後日本では生産性の向上は待ったなしの状況といえるでしょう。
とはいえ、一足飛びに生産性を上げることは容易ではないと思いますので、今日は長時間労働について少し深堀したいと思います。

いわずもがな恒常的な長時間労働の削減は日本企業においてきわめて重要な課題です。
コスト削減といった観点もあるものの、従業員の生活の質を向上させ、企業への満足度を高めることで、人材の流出を抑え、新たな戦力の流入にもつながります。
言いかえると、昨今の風潮から、残業だらけの会社からは人が出ていき、ブラック企業とのレッテルが張られてしまったら、採用希望者は激減することにもなりかねません。

皆様の会社では長時間労働対策としてどういった施策をとられていますでしょうか?
大企業においては、古くから「ノー残業デー」等の強制的に帰らせる日を設ける施策がとられているのをよく見かけます。
一定の効果は出てるようですが、そういったある種外科的な施策は、ひずみが出ていることもあるようです。
勤怠管理の厳格化が仇となり、ごまかして残業することで、表面的な残業時間がへり、会社の上層部が満足。そして現場はシラケるといったようなことがあげられます。
こうなると社員の中には働き方改革に対して、諦めモードになったり、後ろ向きな感覚が生まれたりし、導入する前よりも悪い状況になりかねません。

では企業としてどのように取り組んでいけばいいのでしょうか?
ある書籍にて、興味深い内容がございましたので紹介いたします。残業がなくならない原因は以下の3類型に分類されます。

①集中:できる人に集中。
②感染:周りが残業することにより、帰りずらい。
③遺伝:残業が当たり前のの上司がいる職場はおのずと残業が多くなる。また、できるモーレツ社員の魂が引き継がれるといったことも。

いかがでしょうか?自社に当てはまるものはありませんか?
もしかするとずべて当てはまるなんてこともあるのではないでしょうか?

単に残業が多い!ではなく、自社の残業にはどういった傾向があるかをまず調べてみることをお勧めします。
それには、正確に残業データを取得し、残業の傾向を見える化します。
データは全体で平均化するのではなく、部署ごとや人ごとで分析し、集中なのか、感染なのか、遺伝なのか判定します。
個人が突出しているなら、集中であるし、どの部署も同じであれば感染の可能性が高いといった具合にです。
そして、その原因に対してどのような取り組みをすべきか、考えていきます。

次に実際に対策に取り組む際には、現場、特にマネージャのコミットメントが必須です。
すでにご実感されている企業も多いかと思いますが、まずひずみがでるのがマネージャです。
部下の残業を減らすため、マネージャが巻き取り残業する。このことによりマネージャの負荷があがるのは当然のこと、周囲に帰りにくい空気を「感染」させてしまうという負のスパイラルになりかねません。
マネージャとの対話は必須となるでしょう。

経営陣は、企業としてのメッセージをきちんと、できるだけ対面で繰り返し伝えることが重要です。
「政府が言っているから」ではなく、会社の置かれている状況、市場・環境が変化している状況などできれば数字を使って語ることで納得感を醸成します。
外科手術だけでなく、体の中から直していく体質づくりを企業として本気で取り組んでいくことが今後求められてくるといえそうです。

最後に、残業代の減少はともすれば、個人から見るとマイナスにもなりえます。実際に残業代が生活費に組み込まれている人もいるためです。
そのため効果は見える化し、効果が出ている部署などには、残業代を還元といった配慮も効果的です。

【参考文献】
中原淳+パーソル総合研究所 「残業学」 2018年 光文社

 

【略歴】
小石悟史(こいし さとし)
中小企業診断士
東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員 青年部副部長