コロナ禍の今、心身ともにストレスを抱える人が急増しています。従業員の健康状態は個人の生産性や、組織の業績担保に大きく影響します。本コラムでは、すぐに実践できる4つのストレスマネジメントをご紹介します。

【1】ストレスマネジメントとは
 ストレスは様々な病気の原因とされており、現代社会に生きる私たちには避けては通れないものです。ストレスは、①ストレッサー(ストレスを引き起こす出来事)、②ストレス反応(出来事によっておこる反応)の2つから構成されます。私たちはストレッサーの影響を強く受けると、ストレス反応として、うつや心疾患等の身体症状が発現し、従業員においては欠勤や傷病休暇等の発生要因となります。
 一報、普通に出勤しているように見える従業員でも、ストレス反応を含む怪我や病気の問題を抱えていることがあります。これをプレゼンティーズムと言い、非常に大きな生産性低下やケアレスミス発生等の要因になっていると言われています。では、私たちはどのようにしてこうしたストレスに対処していけばよいのでしょうか。

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【2】健康経営の観点からの予防策
 結論からお伝えすると、ストレスを溜めないよう予防策によってストレスをマネジメントすることが必要です。ストレスマネジメントによって、従業員はストレスに対する高い耐性を持ち、ストレス反応から早期に立ち上がることができ、高い生産性を維持してイキイキと働くことができるようになります。健康経営の観点では、メンタルヘルスの不調者への対応として次の3つの予防策を定めており、各段階での実施項目が定められています。
 ・ 一次予防:職場環境改善や労働者のストレスマネジメント向上
 ・ 二次予防:メンタルヘルス不調者の早期発見と対応
 ・ 三次予防:メンタルヘルス不調者の現場復帰や再発予防
 あらかじめ一次から三次までの予防策を講じておくことがベストですが、本コラムでは一次予防であるストレスマネジメントにフォーカスし、「明日からできる4つの予防策」をご紹介します。

【3】明日からできるストレスマネジメント4つの予防策
■予防策1:体を動かす
 適度な運動は非常に重要で、週に150分の運動だけで心臓疾患、がん、糖尿病等の主要な疾患のリスクを30~60%も低減することができるというデータがあります。また、運動はセロトニンというストレスに効果のあるホルモンの分泌を促進し、ストレス軽減につなげることができます。「運動が大事なのはわかっているけど、長時間の筋トレやランニングはなかなか続かないんだよ…」という方も多いと思います。そこで、短時間で・簡単に・日常生活の中でできることから始めましょう。
 厚生労働省は+10(プラステン)運動を推奨しています。これは日常生活の中で今よりも10分多く体を動かすことで、健康寿命を延ばせるというものです。+10によって、1年間で1.0~2.0kgの減量効果が期待できるともいわれています。
<個人でできる具体策>
 ① 階段利用の推奨、②職場の1駅前で降りて徒歩通勤、③大股で歩く・歩行速度を早めるなどの歩行負荷の増加
 ポイントは、日ごろの生活習慣を大きく変えることなく、日常の行動パターンの一部を変えていくことで、無理なく行動変容を促していくことです。エスカレーターを階段にする、2~3分程度の電車利用なら1駅間を歩く、などの小さな変化を積み重ねていきましょう。
<企業としての具体策>
 ① 社員へウォーキングを励行する、②ボーリング大会など運動のイベントを企画する
 ウォーキングの励行には、スマホアプリにより社員同士で歩数を競わせるウォーキングラリーの実施なども効果的です。こうした仕組み化で、普段体を動かさない従業員も巻き込んだ運動機会の増進が図れます。

■予防策2:適切な食行動をする
 「朝は寝起きが悪い」「午前中はパフォーマンスが出ない」という方はいませんか?その場合はぜひ1日3食の規則正しい食事を心がけましょう。栄養バランスの良い食事をとることも必要です。例えば、野菜不足や脂質の過剰摂取のような栄養バランスが崩れた食行動を送った場合、メタボリック症候群、糖尿病、高血圧、貧血など生活習慣病の罹患リスクが高まります。5大栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、無機質、ビタミン)が整った食事をとるために、厚生労働省の「食事バランスガイド(https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/)」を参考に1日の食事を見直しましょう。
<個人でできる具体策>
 ① 1日3食規則正しく食事をとる、②バランスの取れた食事をとる、③30回以上よく噛んで食べる
朝食には、体内時計が整う、体温が上がることで目が覚める(副交感神経から交感神経が優位になる)、噛むことで脳に刺激が伝わるなど、複数のメリットがあります。朝に弱いという人は、朝食をとるだけで体調が今より良くなる可能性があります。時間がない場合、スープ1杯やバナナ1本でも体内時計が整う効果は得られます。
<企業としての具体策>
 ① オフィスデリバリーサービスの活用、②食育セミナーの実施、③食事補助制度の導入
 近年では総菜や弁当など、バランスが取れた食事のオフィスデリバリーサービスが充実してきています。初期費用0円から試せるサービスも存在するため、近隣で利用可能なサービスがないか調べてみましょう。

■予防策3:休憩・気分転換
 休憩や気分転換を行うことは、ストレスの予防・改善につながります。特にデスクワークが多い職場は腰痛の原因にもなるため、定期的に席を立って体や気持ちを休めることが大切です。休憩中の同僚間のコミュニケーションでは、さまざまな情報交換が生じるなど、新たなアイデア創出にも役立ちます。
<個人でできる具体策>
 ① 15分程度の昼寝、②1時間に5分程度の小休憩や同僚との会話、③資料を見る必要のない電話は歩きながら行う
 15分程度の昼寝は別名パワーナップ、ショートナップとも呼ばれ、昼休みにデスクでうたた寝する程度でも非常に高い疲労回復効果があるため、海外の一流ビジネスパーソンも積極的に活用しています。勤務中でも仕事の合間の休憩をしっかり確保し、気分転換することで集中力を持続させましょう。
<企業としての具体策>
 ① 休憩時間の仮眠やストレッチの推奨、②休憩スペースの設置等
 会社の設備として休憩スペースを設置することで、休憩中の社員間コミュニケーションが促進され、ストレス解消効果が期待できます。

■予防策4:健康意識を高める
 社員一人一人が自らの健康状態をチェックし、自発的にストレスや疲れを溜めない行動を促すことも重要です。健康に対する正しい知識=ヘルスリテラシーを高めることを健康経営の第一歩に据える企業もあります。

<個人でできる具体策>
 ① ストレス状態をセルフチェックする、②自身の健康状態を記録する
 自分自身の健康状態を把握するために、厚生労働省の「3分でできる職場のストレスセルフチェック」を利用して自身のストレス状態をセルフチェックしてみると良いでしょう。   
 https://kokoro.mhlw.go.jp/check_simple/
 また、定期的な自身の健康状態(体重、体脂肪、睡眠時間、運動時間、食生活)を記録することも、自然と生活を改善しようと意識が働くため心身のストレス解消に効果的です。

<企業としての具体策>
 ① メンタルヘルス講習や、生活習慣改善セミナーによる啓蒙、② 健康状態を測定する機器の設置、③ ウェアラブル端末や健康管理アプリの励行
 健康についてどのような啓蒙手段をとればよいかわからない場合、厚生労働省が展開する「スマート・ライフ・プロジェクト」のツールを活用すると良いでしょう。「健康手帳」など、各種の啓蒙ツールが展開されています。
https://www.smartlife.mhlw.go.jp/tools/notebook

【4】まずはできることから始めましょう
 4つの予防策を見てきましたがいかがだったでしょうか。従業員のストレスマネジメントには「コストゼロ」でもできる取り組みが沢山あります。必ずしも最初からシステム導入や外部専門家の雇入れを必要とするわけではなく、「これならできる」と思えるような小さなことから始めればいいのです。
 取り組む負担が大きいアクションは、成果が出るまで続けにくくなってしまうもの。前述の4つの中でも「明日からできる」というスモールチェンジから、無理なく実践していきましょう。
 上記以外にも健康経営オフィスレポートでは複数の取組を紹介しているので、興味のある方は参考文献を参照してみてください。本コラムが、経営者、従業員の皆さんが心身ともに健康な日々を送ることに役立てれば幸いです。

【参考文献等】
 会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン(すばる舎 著:川野泰周)
 精神科医が教えるストレスフリー超大全(ダイヤモンド社 著:樺沢紫苑)
 健康経営オフィスレポート : https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf

【プロフィール】
 江波戸 良光(えばと よしみつ)
 中小企業診断士、健康経営アドバイザー、SP融資コンサルタント、DTPエキスパート、ITコーディネータ
 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会中央支部 会員部副部長・執行委員
 大手プリンター関連企業において、印刷・デザイン業の顧客に対する販売促進・マーケティング支援に従事。
 企業内中小企業診断士として、補助金申請・融資等の資金調達や税制優遇支援、従業員目線を活かしたストレスマネジメントに関する講座のセミナー講師や企業研修講師の実績多数。