1.はじめに
 日々の業務(定常業務)で手一杯だけど、「今から○○に手をつけないと...」、「○○をすれば効率よく仕事ができると思うんだけど...」、「第三者機関の○○認証登録を考えているんだけど...」等々、経営者様からこのような話しを聞くことがしばしばあります。
 本稿では、経営者様の頭にある「○○に向けた取組み」を「プロジェクト」と称して、その遂行及び管理のポイントになる部分を筆者の経験をもとに紹介します。
 〇〇は、例えば、新製品・サービス開発、業務改善活動、第三者機関の認証登録、ここ数年話題のSDGs宣言や省エネ活動などの非定常業務です。イメージ図で示すと下図赤字部分です。
 また、公的機関で行っている伴走型支援(ハンズオン支援)も一つのプロジェクトと言うことができます。伴走型支援についても、簡単に触れます。
 なお、本稿は、「プロジェクト」を体系的に整理したPMBOKやP2Mを基本としますが、それらを解説するものではありません。

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図1:本稿で紹介するプロジェクト

2.プロジェクト及びプロジェクト管理
 前項図1のプロジェクトを文章(定義)で示すと下記の通りであり、自社の事業を継続的・発展的に展開していく重要な取組みです。
 「プロジェクトとは、特命使命を受けて、始まりと終わりのある特定期間に、資源、状況など特定の制約条件のもとで達成を目指す、将来に向けた価値創造事業である。」
 ここで、一番気にしておくことは、プロジェクトは自社の定常業務につなげる(つながる)新たな価値を創る取組みであるということです。プロジェクトのどの段階(ステージ)においても常にこのことを念頭に遂行していきます。各ステージでのポイントを次で説明します。
 また、そのプロジェクトの管理(マネジメント)を文章(定義)で示すと下記の通りです。
 「プロジェクトマネジメントとは、使命を達成するために有期的なチームを編成して、プロジェクトを公正な専門的手段で効率的、効果的に遂行して、確実な成果を獲得する実践的能力の総称である。」
 「公正な専門的手段で効率的、効果的に遂行」の管理が求められています。このポイントについても次で説明します。
 いずれの定義も出典元は「プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック 小原重信 PHP研究所」です。プロジェクトをしっかり学びたい方はそちらをご覧ください。

2.1 プロジェクト遂行手順
 プロジェクトはおおよそ下図のように進めていきます。各ステージに会議体名称を記載していますが、次のステップへ進むための社長(経営陣)への報告及び承認行為と読み替えてもらってかまいません。会議開催の要否は各社の規模、プロジェクトの規模、社内承認要領などによります。

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図2:プロジェクトの進め方

以下、各ステージでの進め方及びポイントについて述べます。
(1)プロジェクト発足
 「〇〇に向けた取組み」の「○○」を達成するために有期的な組織を組成します。社長がメンバーを選任する、自薦他薦を募るなどの決まりはありません。
 重要なのは、価値をまだ生み出さない(利益を生まない)活動であるが、社内で承認された組織活動として、しっかり認知されることです。全社へ周知し、必要に応じて恒常組織と同様にリーダー、メンバーへの人事発令(任命書の発行など)を検討ください。
 プロジェクトメンバーは定常業務と兼務する場合が多いと思いますので、組織全体で業務の平準化を図るためにもプロジェクトの組織活動の全社への周知は必要と考えます。

(2)プロジェクト方針・計画策定
 「〇〇」を達成するために解決すべき課題を設定します。現状と達成目標との差がプロジェクト遂行中に解決していく課題となります(下図ご参照)。

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図3:課題=達成目標-現状

 その為に、まず現状分析(現状の洗い出し)を行います。そして現状から課題解決へのシナリオ(仮説)をひとつひとつ組み立てていきます。プロジェクトによっては、プロジェクトマイルストーン(プロジェクト遂行中の節目や区切りとなり遅れを許さない重要な通過点)の設定も検討します。
 そして、達成目標までに解決すべき課題に対してメンバーの役割分担や実施期間・要領などを決めていき、具体的な実施計画を策定します。
 現状分析、課題設定、解決へのシナリオづくりは、ホワイトボードに書き出したり、ポストイットに書いて貼り出したり(下図)など、やり方はいろいろあります(やり方・手法についての説明は割愛)。メンバー全員で持っている情報を見える化し共有しながらじっくり、しっかりと検討を行うことがポイントです。
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図4:ポストイット活用例:書き出し⇒貼り出し

 なお、プロジェクト方針についてはリーダーが示す(2.2.1(3)項ご参照)ことになりますが、この段階でメンバー全員が確認し、腹落ちするものにしておきましょう。
 このようにして策定した現状分析から実施計画までを書面(見える化)におこします。これは、プロジェクト完了までのバイブルになるものですから、しっかり時間をかけて、メンバーで納得いくまで検討し作り上げるのが望ましく、もし、プロジェクト遂行に行き詰ってしまったら、ここに戻ってきましょう!
 このステージでのポイントはメンバーでしっかり考え、見える化するです。
 また方針・実施計画書は社長(経営陣)へ説明・提出の上、承認を得ることも忘れずに行います。これにてリーダーは本計画書記載のプロジェクト遂行に係る一切の権限を委譲されたことになります。(本書に記載のないことは実行する権限がないのでやってはいけません。)

(3)プロジェクト遂行
1)遂行要領
 方針・計画書に従い、メンバーが自身の担当業務を行い、その成果物を他メンバーにバトンタッチするように引渡しながら進めていきます。ここでのポイントはプロジェクトを止めない!です。(プロジェクトにもよりますが)自分の担当業務を100%にしてから次のメンバーに引渡したくなりますが、種々制約条件などから順を追って進めることができないことがあると思います。自分の担当業務を含め前後のメンバー(工程)とラップしながら、また前後を行き来しながら前進していけばよいと考えます。少し乱暴ですが、自分の担当業務は60~70%の出来で、周りのメンバーを巻き込みプロジェクトをグルグル回しながら進めていきましょう。言い方を変えると、メンバーの知恵を借りながら協力しあい進めていくということです。これは、組織力の醸成につながります。

2)進捗管理
 プロジェクトの進捗に伴い、遂行ステージが変わることがあると思います(例:予算を大きく使う。このポイントを過ぎたら後戻りできない、等々)。また、期間が長いプロジェクトであれば、予算に対してその実績並びに今後の予想を報告することも必要でしょう。
 プロジェクトマイルストーンのタイミングなどで社長(経営陣)への報告を予め設定しておくとよいと考えます。社長(経営陣)からプロジェクト進捗の承認を得るとともに、社長(経営陣)のメッセージをプロジェクトへ反映する機会でもあります。
 会議を開催するか、報告で済むか、会社、プロジェクトの規模などによりますが、進捗報告書は書面におこし、誰がみても客観的に評価ができるよう定量(数値)化するのが望ましいです。定性面の評価・報告では、現時点で抱えている問題点や今後の懸念事項などを隠さず表にだし、社長(経営陣)からアドバイスを得る機会としても活用できます。

(4)プロジェクト完了
 達成目標の「〇〇」に到達できたらプロジェクトの完了報告です。
 プロジェクトを振り返り、良かった点、悪かった点、同じような取り組みへの横展開などを書面におこして、教訓として社内に共有します。進捗率、工数、予算実績などは数値で残しておくと次回のプロジェクトの参考になります。何よりこのプロジェクトの取組み、学んだことなど全てが自社の企業価値向上に資する自社独自の(他社にマネできない)財産となりますので、完了報告はしっかり行う必要があります。
 そして、プロジェクト完了後は「〇〇」は定常業務となりますので、完了報告での成果は新たな定常業務のスタートポイントと考えることができます(下図)。新たな定常業務を行う上での制約条件なども整理しておく必要があると考えます。

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図5:プロジェクト完了と新たな定常業務のスタートポイント

(5)まとめ
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2.2 プロジェクト管理要領
 本項では、プロジェクトを束ねるリーダーが気を付けるポイントについて述べます。
 リーダーは経験によるところもありますが、下記に示すポイントを意識して取り組むことを心掛け、気負うことなくプロジェクトメンバーに助けてもらいながらマネジメントしていけば良いと考えます。
 リーダーがメンバーを引っ張るというより、メンバーに仕事しやすい「場」(物理的、情報的、心理的な環境)を提供し、メンバーが自ら考え生み出した成果(価値)をメンバー間に共有し、繋ぎ合わせてゴールへと誘導するイメージです。

2.2.1管理のポイント
 リーダーの要件は次の3つ、(1)資質(人格)、(2)能力、(3)手法を知っている、と考えます。
(1)資質(人格)
 資質は生まれつき持っているものかもしれませんが、ある程度努力で形成できると考えます。
 一人でできることは限られているため、メンバーを大切にし、相手の立場になって考える。その為にはフェアー(公明正大)であり、説明責任を果たし、約束は守る、を心掛ければよいと考えます。
 本項冒頭での述べたようにメンバーに「場」を提供する役割を担うと意識するとそうせざるを得なくなります。
(2)能力
 分析力や洞察力などの能力が必要です。その為に、プロジェクトを次の観点から捉えることを意識されるとよいと考えます。
1)俯瞰する・仮説を立てる
 目先の業務に振り回されず、常にプロジェクト全体を俯瞰し、客観的な目で事象を捉え、評価し、実行することです。
 特にプロジェクト方針を決める時は、始まってもいないプロジェクトのゴールを想い描き、概略の工程(シナリオ)を考えなくてはなりません。この時、使用可能な資源(ヒト、モノ、カネ、情報)、制約条件など全体を俯瞰しないと概略工程が描けず、多少なりでも描けてしまえば、その為にどう進めればよいか方針が生み出されます。

2)優先順位・重要度分析
 プロジェクト遂行中は様々事象が起きます。その時、何から着手してよいか悩むこともあるでしょう。そのような時はゴールから現状(事象)までを逆向きの工程を考える(バックキャスト)ことによって、今やるべきことの優先順位や重要度も見えてきます。今、どの程度の優先順位、重みで手当しておくべきことなのかどうか判断できます。

(3) 手法を知っている
1)方針を立てる
 前項俯瞰する・仮説を立てるに記載の通りです。方針はリーダーが起案し、メンバーが納得するものにする必要があります。方針立案は、達成目標からバックキャストでスタート地点に戻り、成功へのシナリオ(仮説)を考えて策定していきます。方針がないプロジェクトはメンバーをまとめることができません。
2)プロジェクトを回す
 プロジェクト遂行のポイントでも記載した通り、プロジェクトをとにかく回す(止めない)、です。リーダーはこのことを意識して、メンバーに周知しましょう。結果としてこれば組織力強化になり成功への近道です。
3)同期コミュニケーション
 目先の業務に追われ、近視眼的思考(自分都合)に陥り、メンバーの進むべき方向がぶれてしまうことが多々あります。適宜同期コミュニケーション(関係メンバーとの打合せやすり合わせ)を図り、メンバーのベクトル合わせにつとめましょう。(1)で記載したメンバーに「場」を提供する役割を担うことを意識すると自然と同期コミュニケーションのタイミングがみえてくると考えます。
4)不確実性の高いプロジェクト手法
 例えば、製品・サービス開発案件など、先が見えない、どう進めたらよいか迷う、メンバー間にコンフリクトが生じやすい時は、
 ・ ワークショップなどで同期コミュニケーションの頻度を上げ、書面におこしてメンバーの頭の中の見える化を図りましょう。
 ・ 階層分析法など、問題解決型の意思決定手法なども有効です。

2.2.2まとめ
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3. 伴走型支援(ハンズオン支援)の活用
 前項までに遂行及び管理のポイントのなどを記載しましたが、自社の経営状況に鑑み実態に則した支援をして欲しいという声もあると思います。公的機関が行っている伴走型支援(ハンズオン支援)を活用することをお勧めします。
 プロジェクトはあくまでも自社で進めていきますが、方針・計画書策定から遂行、完了に至るまでの各ステージで必要なスキルを持つ専門家のアドバイスを得ることができます。
2.1(2)項プロジェクト方針・計画策定段階で触れた各種手法を教わると同時にコメント・アドバイスなども得られます。また、資金面では補助金、助成金を活用することを含めたプロジェクト遂行も検討してもらえるでしょう。
 そして、これら支援では必ず支援計画書(名称は機関によります)にて実施計画が明確に示されます(2.1(2)項に記載した方針・計画書)ので、プロジェクト遂行のノウハウの習得もできます。
 公的機関を大いに活用してプロジェクトを遂行するのも有効な手段と考えます。

4.おわりに
 筆者は、エネルギー関連のプラント建設工事のプロジェクトに長年携わってきました。多くの諸先輩方から言われてきたことは、プロジェクトは唯一無二、生き物である、必ず問題が発生するが、終わらないプロジェクトはない!です。全くその通りで、プロジェクト遂行は型にはまったやり方は無いとも言えますが、ある一定のポイントを押さることで、効率的かつ効果的に遂行できます。そして、プロジェクト遂行自体が企業文化となり、自社の企業価値向上を図るものになると考えます。
 自社の「〇〇へ向けた取組み」の一助にしていただけたら幸甚です。

以上

略歴:
 安達 功(あだち いさお)
 プラントエンジニアリング会社に27年間勤務、2022年に退職し中小企業診断士として独立開業
 中小企業診断士、技術経営修士(MOT)、エコアクション21審査員補