世界情勢の流動化やコロナ禍のような不測の事態が起きる現代において、未来がどのように変化するのか、その未来に対してどのような備えをしておけばよいのでしょうか。本稿では、シナリオプランニングがどのように経営に活用できるか説明します。

シナリオプランニングの概要とその重要性
 シナリオプランニングは、未来に起こりうる可能性を複数想定して、それぞれで起こりうる異なる未来世界に自社と事業環境を置いて、現時点で打つべき手を考える手法となります。未来世界を描くというと、SFの世界観を思い浮かべるかもしれませんが、そうではなく、統計データなどのファクトデータに基づいて、未来を俯瞰し、複数の可能性を取り扱うため、フィクションの世界を語り合うものではありません。しかし、一寸先は闇という言葉のように、今ここより先の話は誰も見通すことはできません。ですので、シナリオプランニングを扱う場合も、未来について正確に予測することは不可能というスタンスで行います。
 シナリオプランニングの歴史は古く、1970年代初頭に旧ロイヤルダッチシェルが社内に専門のチームを設置して活用しており、オイルショックの時に悲観的なシナリオに対する検討を行ったことで、その難局に適切に対応できたという事例が有名となっております。

 このように50年以上前から利用されていたツールですが、当時の日本は高度成長期の右肩上がりの時代であり、未来に対する予測もある程度見通しがつきやすかったため、現状の改善の方が求められていました。一方で、現代は経済環境だけでなく、政治、技術変化、社会、様々な分野での変化のスピードが速く、未来を見通すことが難しくなっており、そのような環境下で、未来を扱うシナリオプランニングが注目を集めております。
 ここで改めて、シナリオプランニングの定義を紹介します。ここでは、新井宏征氏の定義を引用いたします。

設定したテーマにおいて起こり得る不確実な未来の可能性を検討し、その結果をインプットとして不確実な未来の可能性に備える対応策を検討する。さらに、このステップをくり返すことで、未来の捉え方をアップデートし続ける取り組み。

 この定義にあるように、自分たちの取り扱いたいテーマの未来について、複数の可能性を考えて対応策を考える。それを繰り返すことで、自らの未来の捉え方をアップデートするツールとなります。
 シナリオプランニングを活用することで、現状の延長線上に見通す未来だけでなく、複数の未来について考えることで、さまざまな視野や視点で自組織の取り組みを検討できるようになります。また、さまざまな視野や視点をもつことで、変化の可能性を先取りして動くことができるようになります。そして、未来に対してオープンな態度で向き合うことにより、組織やチーム内に「戦略的対話」を行う土壌を育むことができます。
 このような活動を継続することで、変化に強い組織を作ることができるのです。

未来のシナリオを描く7ステップ
 次に、シナリオプランニングの7つのステップを紹介します。

遠藤_202308_01

図 シナリオプランニングの7ステップ

 最初にシナリオとして取り扱いたいテーマを考えます①。次にテーマに関連する外部環境情報を調べます②。調べた外部環境の中で、そのテーマに大きな影響を与える要因を抽出します③。その要因のなかで、可能性が1つに特定できるものを特定し、複数シナリオの共通情報として扱います④。そして、複数の未来をシナリオとして考えます⑤。それぞれのシナリオで考える未来となった時の事業環境や技術変化、お客様や従業員のニーズがどうなっているかなどについて、詳細に検討します⑥。このように検討したシナリオに対して、今どのようなアクションが必要なのか、バックキャスティングで検討します⑦。
 ここで紹介した7ステップは、シナリオプランニングをフルスペックで作成する手順を示しております。シナリオプランニングの定義にもあるとおり、シナリオを作ることが目的ではなく、作ったシナリオをインプットとして活用することが大切です。そのため、シナリオを活用する目的によっては、ステップを省略したり、あるいは、作られたシナリオを読んだりする活用方法もあります。あくまでも、目的に沿った活用ができればよいのです。

シナリオプランニングの活用領域
 それでは、シナリオプランニングを作成して、どのような業務や分野で活用できるのでしょうか。
代表的な活用方法としては、戦略や計画、事業等を検討する際の外部環境情報としてシナリオを利用することが挙げられます。経営戦略や事業戦略などだけでなく、新製品開発時の消費者行動の変化や、M&A後の市場環境や競合他社の動き、規制の変化について考察するとき使用します。また、最近では、3~5年のスパンで作成する中期経営計画は時代の変化に対応できないという理由により、5年~10年先のシナリオを作成し、そのシナリオに対応する年度計画をローリングする運用を行う企業も出てきています。
 次に、自社の経営戦略や事業戦略を検討するうえで、長期的な軸となる自社のパーパスを検討するために活用することもあります。また、そうした自社の存在意義を社内で検討する活動などをとおして、社員一人ひとりのメンタルモデルのアップデートを促し、変化に適用できる組織づくりを行うことができます。
 キャリアプランを計画するときに、様々な可能性に適用できるキャリアを考えるためにシナリオプランニングを使用するといった個人での使用例もあります。ジョブ型雇用の浸透することで、自身のキャリアを個々人が考えるようになり、多様なライフスタイルを実現するためにどのようなキャリアがあるのか、未来を考える際に使用します。

参考文献
 新井宏征(2021)「実践 シナリオ・プランニング」日本能率協会マネジメントセンター
 角和昌浩(2022)「シェルに学んだシナリオプランニングの奥義」日本経済新聞出版

略歴
 遠藤孔仁(えんどうこうじ)
 中小企業診断士・ITコーディネーター
 (一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員 広報部 副部長
 (一社)せたがや中小企業経営支援センター 理事