1.健康経営に取り組む企業は10万社を超えている
 このコラムが掲載される10月上旬は、健康経営優良法人の申請締切がせまり、健康経営優良法人認定を目指す企業にとっては忙しい時期です。
昨年度の中小規模法人部門の認定数は約14,000社でした。筆者の独自予想(※1)では、今年度は3万社を超えます。理由は2022年時点で健康宣言という健康経営に取り組み始めた企業が12.9万社に急増したからです。経済産業省や国税庁の統計から、現在の法人数は300万から400万の間と予想されますから、今年度健康経営優良法人認定数は法人全体の1%程度になると予想されます。健康経営を始めた企業はすでに3~4%です。少ないようですが、都心なら今いる場所に立って周りを見渡せる範囲に健康経営に取り組んでいる企業が何社も存在するという状況です。御社の取引先、顧客、競合の何社かは健康経営に取り組んでいてもおかしくない数字です。
 人手不足の中、人を大切にしない企業は生き残れない可能性が高くなっています。高齢化する労働者に力を発揮していただく必要もあります。健康経営は特別な取り組みではなく、ヒトに仕事の力を発揮してもらうために必要な活動の1つです。健康経営優良法人を目指すことで、自社の従業員の健康管理を見直しませんか。
※1 健康ビジネス研究会コラム寄稿記事参照 https://kenbiken.org/infomation/blog230307/

 
2.健康経営優良法人取得に向けた大枠スケジュール
 さて、今から健康経営を始める企業の場合、この秋に健康経営を始めて、2年後の健康経営優良法人申請を目指すのが無理のないスケジュールです。(図表1)
 健康経営優良法人の評価対象となる企業の取り組みの期間は、申請前年4月から申請直前までです。当年度は申請まで約半年しかありませんから、取り組みの中心は前年度ということになります。ですから、来年度(2024年度)の取り組みが2025年度の申請の対象となります。従って、今年度は、来年度から健康経営の取り組みをしっかり行うための準備期間となります。

図表1 健康経営優良法人を2025年度申請に向けた大枠スケジュール
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3.健康経営優良法人取得に向けて実施すべきこと
 この準備期間からの2年間で実施すべきことを、もう少し具体的に東京都の中小企業の場合を紹介します。東京都外の場合、②を自社の都道府県に置き換えれば、他県でも応用できます。特に最初の現状把握・準備期間である2023年度の活動が重要です。

①健康経営優良法人の要件把握と現状把握
 まず健康経営憂慮法人の申請書を入手して、要件を把握するとともに、自社が出来ている箇所、できていない箇所を確認しましょう。申請書は健康経営優良法人のポータルサイト「ACTION!健康経営」から取得できます。
健康経営優良法人ポータルサイト「ACTION!健康経営」 https://kenko-keiei.jp/
 健康経営優良法人の要件は申請書に記入されており、設問の選択肢に提示された取り組みだけが適合となることが中小規模法人部門の特徴です。選択肢に該当する取り組みを実施していなければ、その項目は不適合になります。ですから、必ず健康経営優良法人の最新の申請書を選択肢レベルで確認して、自社が既に実施している取り組み、実施できていない取り組みを確認することがスタートとなります。内容を確認して、実施に時間がかかりそうな項目は早めに着手しましょう。なお、健康経営優良法人の要件、特に選択肢の内容は毎年少しずつ変化していますので、毎年8月に発表される健康経営優良法人の申請書チェックは必須です。

②早めに「健康企業宣言」して、健康優良企業「銀の認定」を取得する
 健康経営優良法人の中小規模法人部門では、各都道府県の健康宣言事業に参加しなければ、申請資格がありません。健康宣言事業というのは、各県の自治体や保険者(協会けんぽや健康保険組合)が用意する企業の健康経営を支援する仕組みです。保険者は企業の健康経営推進のパートナーであり、企業と保険者の連携強化ツールが健康宣言事業です。
 東京都の場合、協会けんぽ東京支部や東京都の健康組合が提供している仕組みが「健康企業宣言」です。「健康企業宣言」に参加して健康優良企業「銀の認定」を取得しなければ、健康経営優良法人中小規模法人部門に申請できません。「銀の認定」は「健康企業宣言」に申込後、最低6か月で取得できますが、各施策で6カ月以上の実施が求められるため、健康経営を一から始める場合は計画策定や準備を含めて8カ月から1年間程度必要です。ただ、健康経営優良法人より必要な取り組みが少ないため、健康経営優良法人の通過点として「銀の認定」取得を計画しましょう。

③2023年度から目標を設定し、計画を立ててPDCAを回し始める
 健康経営優良法人では、「数値目標・計画の策定」「評価・改善の実施」が必須要件です。そもそも健康経営の定義である「従業員等の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」の“戦略的に実践する”というのは、“目標を設定して全社でPDCAを回すこと”です。PDCAは企業活動の基本で、従業員の健康管理も例外ではありません。
 まずは2023年度中に、簡単で結構ですから数値目標を設定して、2024年度の実行計画を作成し、2024年度の最後に評価・改善を行うことです。前述の「銀の認定」でも「課題の整理」と「目標の設定・計画の策定」の項目があり、2023年度の活動は「銀の認定」取得に向けた活動も兼ねられます。
 なお、数値目標を設定する際には、健康経営優良法人の申請書「3-1-1.健康経営の具体的な推進計画」のQ10のSQ2のフォーマットを参考にしましょう(健康経営優良法人2024の申請書を参照)。また評価の際には、取り組みを計画通り実施できたか、そしてその結果、数値目標標を達成できたかどうか、この2つを意識しましょう。そして、次年度の目標設定や取り組み方法の改善につなげられれば、毎年のレベルアップにつながります。

④健康診断受診率100%を目指す
 健康経営優良法人では100%が求められます。中小規模法人部門の場合、受診率95%以上で且つ未受診者には個別勧奨するという条件もあります。できるだけ、2024年の内に達成することをお勧めします。もし達成できなかったとしても、翌年度、優良法人申請時までに再チャレンジができます。

 最後に参考までにスケジュール例を提示しておきます。自社の状況に合わせて、スケジュールを作成して進めてください。

図表2 健康経営優良法人を2025年度申請に向けたスケジュール例
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【東京都の専門家派遣制度のご紹介】
自社だけで健康経営を始める自信がない企業は、無料で専門家が支援する東京商工会議所の専門家派遣事業の活用をお勧めします。
健康経営 専門家派遣(東京都職域健康促進サポート事業) 運営事務局 東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/kenkokeiei-club/06/

 
【略歴】
■小川亮一(おがわりょういち)
中小企業診断士
東京都中小企業診断士協会 中央支部 研修部
東京商工会議所で専門家派遣制度の事務局などを通して健康経営の企業支援・普及に努めている。
主な専門分野:健康経営、経営計画策定支援、職場の生産性向上・人財育成支援 等