【質問】
 「起業を検討しているのですが、何故起業計画書は必要なのですか?」

【回答】
 「起業を考えているけれど、実質的には個人事業主と変わらないし、金融機関から借入もする予定がないから、計画書まで書く必要は特にないと思うのだけど。」と話される方が時折いらっしゃいます。確かに、金融機関から融資を受ける必要もなく、ビジネスを一通り自己完結できてしまうのであれば、その通りと思うかもしれません。
 しかし、考えて見てください。貴方の考えているビジネスモデルの中にお客様やビジネスパートナーの方はいらっしゃいませんでしょうか?その方たちにご自身の提供する商品やサービスについて説明するとき、常に全ての内容を口頭で説明したり、実際の商品やサービスを相手に見せながら説明したりすることは可能でしょうか?実際にはかなり難しいのではないかと思います。

 確かに、起業計画書や事業計画書というと、金融機関から融資を受ける場合や、従業員に向けて方針説明をする場合に必要だというイメージが強いものと思いますが、実はその中にはお客様やビジネスパートナーの方に伝えるべきことも多分に含まれています。何故なら、計画書は貴方の考えているビジネスについて関連する全ての方たちに対して、貴方が伝えたい思いを表現するツールに他ならないからです。
 それでは、起業計画書にはどういった思いを込めなければならないのでしょうか。改めて起業計画書の内容で踏まえるべき要素について説明させていただきます。

 起業計画書は最初に、自己紹介をするところから始めましょう。自己紹介とは、貴方のビジネスについて回りの方たちに紹介するパートになります。どのような商品やサービスを提供しているのか表現することはもちろん、それに加えて貴方自身の自己紹介やビジネスに対する想いや熱意、商品やサービスを利用することによってどのようなメリットを受けることができるかを説明していくことになります。
 貴方が起業した後にチラシ・パンフレットやホームページなどを作る際、お客様にビジネスの内容や提供する商品・サービスについて記載しますよね。起業計画書にもお客様への販売促進や広告宣伝を意識した内容が記載される点では同じです。
 自己紹介のパートをまとめると、大まかに分類して以下の内容について記入していくことになります。
 ①起業のきっかけ・動機
 ②事業に関する経験やノウハウ
 ③経営の基本方針・事業コンセプト
 ④事業の具体的な内容    など

 自己紹介が終わったら、次は貴方のビジネスが展開される環境を考えましょう。まず貴方が提供する商品・サービスは、世の中の全ての方が待ち望み、喜んで購入・利用してくれるものといえますでしょうか?残念ながら多くの場合、市場には既に類似した商品・サービスが存在しているうえ、認知度もほぼゼロに等しいところからのスタートになると思います。
 ここからお客様が貴方の商品・サービスを知り、購入してお金を支払っていただき、充分な売上を確保して、事業として軌道に乗せていくためには、商品・サービスをただ市場に投入するだけの行き当たりばったりの方法では、勝ち残ることが難しいでしょう。
 貴方の商品・サービスを求める方がいるような地域、その方の趣味・嗜好、ライフスタイル、情報入手手段などを検討しないことにはなかなか伝わりませんし、更に類似した他社商品とどのように異なっているかの特長もしっかり伝える必要があるでしょう。
 これが環境分析になります。また、環境も貴方のビジネスを取り巻く市場・競合など、貴方の外部にある環境を「外部環境」、提供する商品・サービスのほか、貴方がコントロール可能であるご自身の経験・ノウハウやビジネスパートナーの存在などを「内部環境」と分類することが一般的で、この環境把握がないことに戦略的な行動を取ることは難しいと考えてください。
 環境分析のパートをまとめると、大まかに分類して以下の内容について記入していくことになります。
 ①ターゲットとする市場・顧客層
 ②ターゲット市場・競合の状況
 ③他社との比較と自社の優位性
 ④認知度向上のためのプロモーション手法    など

 そして最後に、起業することで得ることができる収支や、起業時に必要な資金を数字で表すことによって、貴方のビジネスに実現可能性があるか金銭価値で確認することになります。金融機関に融資を申し込もうと考えている方は、ここまできて初めて融資希望額がどの程度になるか整理されることになるのです。

 つまり、「金融機関の融資は不要だから」「自分1人でビジネスを完結できるから」といった理由は起業計画書を作成しない説明にはなりません。起業計画書は貴方がビジネスを始めるにあたり、お客様・従業員・ビジネスパートナー・金融機関など、貴方を取り巻く周囲の方すべてに貴方のビジネスを発信していくための戦略をまとめたシートになるのです。
 いま貴方が起業に向けて準備を進めているのであれば、今一度このことを意識して、貴方のビジネスを成功に導くために起業計画書の作成に取り組んでみませんか?

●略歴
■ 中川 健史
T4代表
中小企業診断士 認定経営革新等支援機関
唎酒師(ききざけし)、フードコーディネーター2級
民間会社や会計事務所で15年以上経理、財務、税務面の実務経験を持ち、会計回りを得意とする。2015年に中小企業診断士の資格取得と同時に独立してからは、小規模・零細事業者に対する経営・融資の相談や事業計画の策定、創業支援業務を中心に活動しており、小規模事業経営者様の目線に立った意識を忘れることのないような支援活動を心掛けている。