【質問】
 「長年やってきた主力事業を再構築したいのですが、何から始めればよいでしょう?」

【回答】
 「自社の事業活動を可視化して、自社の得意なことを再確認することから始めてみましょう。大切にするところ、改善するところが分かりやすくなると思います。」



はじめに

 将来予測が困難な時代になってきたことに加え、COVID-19のような想定外の事態など、外部環境の急激な変化は、企業経営に様々な影響を与えています。
 「事業を始めてしばらくは上手くいっていたのに、このところ業績が悪化してきた。
 それは、景気が悪くなってきたから、競争相手が増えてきたから、顧客の好みが変化してきたから、悪化の理由はいくつかあるのだろうが、これまでのやり方では立ち行かなくなる危機感を感じる。そこで、今の事業を活かしながら新しい事業の柱を作っていきたいが、何から始めればよいかわからない。」 そう考える経営者の方も多いのではないでしょうか。

 このような時は、バリューチェーンを洗い出して事業活動を可視化し、さらにVRIO分析で強み・弱みを分析してみましょう。

バリューチェーン、VRIO分析とは

 バリューチェーンとは、「企業が製品を設計、生産、販売、配送、サポートするために遂行する活動の集合」のことを言います。ポーターが『競争優位の戦略』の中で提唱した概念で、それぞれの活動は、単なるコストではなく、製品やサービスにバリュー(付加価値)を加える段階であり、それがチェーン(連鎖)になっている、という考え方です。
 VRIO分析は、価値(V)、稀少性(R)模倣困難性(I)、組織(O)に関する問いに対する答えから、企業の持つ経営資源やケイパビリティ(自社の経営資源を組み合わせたり活用したりする力)の強み・弱みを判断できます。
 難しい話よりも、実際にバリューチェーンとVRIOを使って強み・弱みを把握するためのステップを見ていきましょう。

 ① バリューチェーンの洗い出し
210401_01
 上の図は、コンサルティングファームのマッキンゼーが提案したバリューチェーンのモデルです。一般的な同業種のバリューチェーンを意識しながら、自社の活動を当てはめてみます。
 同じ業種にいる企業は、似た活動を行っているように見えますが、A社は原材料の調達先を独自の基準で選定していたり、B社は顧客サポートとして独自のサービスを行っていたりするかもしれません。
 自社はどうでしょう?「製造は優れた加工技術を持っており、継続して向上させているが、製品デザインはあまり特殊なものではなく、マーケティング部分は社内に人材もおらず外注に頼り切り。でも、特殊な流通経路を持っている。」そんな姿が見えてくるかもしれません。

 ② VRIO分析
210401_02
 先ほど明らかにしたバリューチェーンに対し、VRIOの4つの問いを行います。
 [V]経済的価値はあるのか、[R]稀少か、[I]模倣コストは大きいか、そして[O]組織体制は適切か、です。この当社の例ですと、製造(加工)部分が強みであり、持続可能な固有の能力を持っていることになります。
 なお、[O]組織体制の問いは調整項目となります。[O]が適切な状態(方針や経営管理システム、報酬体系が整っているか等)だけで競争優位を生み出すことはできず、他の経営資源や固有の能力と組み合わさった時にそのポテンシャルをフルに発揮することになります。例えば、[V],[R],[I]がYesであっても表右下※Noのように[O]が機能していない場合、保有する強みを活用できていないことになります。

SDGsやDX推進への活用

 バリューチェーンによる事業活動の可視化やVRIOによる競争優位性の把握は、SDGsやDXの推進にも役立ちます。
 ① SDGs(持続可能な開発目標)に新たに取り組む場合
 バリューチェーンをもとに、SDGsの目標やターゲットをマッピングし、機会、リスクの特定を行います。例えば、自社が調達している原材料が環境に負荷がかかるものであれば、それを違うものに変えていく等です。詳細については、SDGコンパス(SDGsの企業行動指針)をご参照ください。

 ② デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
 DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。
 この意味から、DXの導入の際は、バリューチェーン全体を俯瞰して再構築することが重要といわれていることが良く理解できると思います。

まとめ

 事業の再構築には、バリューチェーンを洗い出して自社の事業活動を可視化し、VRIO分析で自社の得意なことを再確認することから始めてみましょう。大切にするところ、改善するところが分かりやすくなります。また、SDGsやDX推進時にも役立ちます。
 先行きが不透明な時こそ、自社の経営資源に目を向け、何を目的に事業をしているのか、現在どんな良いところがあって、それをどうやって活かしていくのか、を検討していきましょう。

参考文献:
 ジェイ・B・バーニー著, 岡田正大訳 (2003) 『企業戦略論 : 競争優位の構築と持続. 上, 基本編』 ダイヤモンド社.
 ジョアン・マグレッタ著, 櫻井祐子訳 (2012) 『マイケル・ポーターの競争戦略 : エッセンシャル版』 早川書房.

参考URL:
 SDGコンパス(SDGsの企業行動指針)
 https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf

 DX(デジタルトランスフォーメーション)
 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation_kasoku/pdf/20201228_5.pdf

略歴
 井原 美恵(いはら みえ)
 Bellaコンサルティング株式会社 代表取締役 
 中小企業診断士 / MBA 東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部副部長
 福島県会津若松市出身。電機メーカー、外資系企業信用調査会社、外資系銀行を経て2014年に独立。国内では経営改善計画策定支援、海外では現地経営人材育成支援、調査業務を中心に活動してきた。地域経済振興につながる経営支援を目指しており、2019年6月からは、地域中核企業の伴走型支援に携わる。