いよいよ2020年4月から中小企業においても順次、働き方改革関連法案の適用が始まります。ただ中小企業にも「規制に対応したら会社がつぶれる」、「人手不足でそれどころではない」といった企業が多数あるのが実情です。しかし働き方改革で重要な点は法令対応ではありませんし、単純に働きやすい環境を整えることでもありません。その本質は、「生産性の高い組織への転換」にあります。そもそも政府が進める働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた施策としてスタートしており、人口が減少する中で、いかにして労働力不足を解消するのか(=いかに生産性を向上させるのか)が起点になっているためです。

実は働き方改革は、意思決定の速さや機動性の高さなどから中小企業の方が推し進めやすいです。では中小企業において、働き方改革をどのように進めていけばよいのか?本コラムでは、働き方改革=生産性の高い組織への転換に向けて経営者が何をすべきかをお伝えしていきます。

 

【生産性向上とは】

まず前提となる生産性とは何かから見ていきます。
働き方改革における生産性とは、投入した労働者数や労働時間(インプット)に対し、どれだけの付加価値(アウトプット)を出したかで測定します。具体的には以下の式で計算できます。

労働生産性 = 付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費) / 労働投入量(労働者数×労働時間)

つまりより少ないインプットでより多くのアウトプットを生むと生産性が向上したといえます。
もう少し深堀りすると、生産性向上とは、付加価値を生まない事業・業務・時間を減らして、付加価値を生む事業・業務・時間を増やすということになります。
ただやみくもに労働時間を減らせと言ってもうまくはいきません。経営者として、何を増やして何を減らすかを明確にする必要があります。

 

【経営者が気をつけるべき5つのポイント】

ポイント1:コアコンピタンスとビジョンを再定義し共有する

何を増やして何を減らすのか、それを決めるためには、コアコンピタンス(自社独自の強み)やビジョン(ありたい姿)は何かまでさかのぼる必要があります。最初の一歩は、コアコンピタンスやビジョンを再定義し社員と共有することです。「本質的に顧客に何を付加価値として提供しているのか?」、「なぜ顧客は競合他社ではなく自社と取引してくれるのか?」、「将来的に顧客や取引先、社員などのステークホルダーとどのような関係を構築していたいのか?」といった質問に経営者自身もですが、経営幹部や幹部候補生などの社員を巻き込んで再考するとより明確になり、共有もしやすいです。

ポイント2:ビジネスモデルの変更も検討する

コアコンピタスやビジョンを明確にしたうえで、ビジネスモデル自体の変更でより付加価値を生む事業に集中できないかを検討します。そうすることで、事業全体の中で何を増やして、何を減らすべきなのかが見えてきます。例えば、開発力に強みがあり、生産力は付加価値が低いと判断した場合は、製造を外部委託に切り替える、今の顧客層よりもより高く価値を買ってくれる(利益率の高い)顧客層にターゲットを移行していく、といった大きな変更を進めることです。以下のような視点が切り口となります。
1.付加価値をより高く評価してくれる顧客層は誰か?
2.付加価値をより効果的に提供できる仕組みは?
3.付加価値の提供に集中できる仕組みは?

よく働き方改革の進め方として、業務改革からはじめてしまうケースが見られますが、効果が限定的であったり、失敗として終わってしまうことが往々にしてあります。また、結果的に変更しないとしてもビジネスモデル自体の見直しは、現場で決定できるものでなく、経営トップが行うべきことと言えます。

ポイント3:経営目標・戦略への組み込みとトップダウンの号令

経営トップが働き方改革および生産性向上を積極的に推進することを表明し、トップダウンで改革を指示する必要があります。経営目標・経営戦略に生産性向上を掲げ、目標値を設定します。具体的な数値にすることが重要です。もちろん進捗もしっかりとモニターしていく必要があります。目標値は、前述の生産性を指標にするのも良いですが、その生産性の数値を細分化していくとさらに良いです。例えば、週休3日制にすることでメディアでも話題になった企業では、実際は、今まで週5日かかっていた業務を週4日で終わらせよということを全社に伝えています。上記例は、労働時間を20%を減らすという目標ですが、同時に具体的にどのように減らすのかの方針・施策を示す必要があります。その施策は、ポイント4でお伝えする通り、社員からのボトムアップ案から決定し、戦略に組み込むことがポイントになります。

ポイント4:業務改革は全社横断で取り組む

トップのコミットメントも必要ですが、働き方改革を進めていくにはボトムアップでの意見収集や施策立案も重要です。数値目標は経営トップが設定しますが、具体的な施策は社員に立案してもらうことがポイントになります。例えば、企業の規模にもよりますが、部署横断のプロジェクトチームを組成し、業務の見直しから施策立案、実行までをチームに任命し、経営トップが適宜サポートしていくと良いでしょう。ポイント1でも触れましたが、経営幹部などのミドル層から幹部候補生や若手社員まで多様な社員を幅広く巻き込むことが重要です。社員の声を丁寧に拾い上げ、ボトムアップで作られた施策であれば、全社員のコミットメントを得やすいです。

ポイント5:すぐに施策を実行する

それでも施策を実施する段階では必ず抵抗勢力が出てきます。現状維持を求めたり、不利益を被るのではと考える社員が一定数いるのは確かです。意識を変えなければ働き方改革は実現できない、働き方改革はまずは意識改革からと言われることもありますが、実は意識を変えようとする取り組みは必要はありません。意識は主観であって変えようと思っても変えられるものではないです。それよりもまず施策を体験させ、そのメリットを感じさせ、定着化させてしまった方が早いです。行動が変われば自然と意識は変わっていくものです。そのためにもプロジェクトチームから提案された施策が、経営ビジョンや目標、戦略と合致するものであれば、まずは一部の部署などでパイロット的にスタートさせてしまいましょう。そうすることでパイロットで体験した部署からの体験談、感想を全社展開の際に活用することも可能です。

 

【組織活性化へ】

以上、5つのポイントを見てきました。全社員を巻き込んで進めなければ働き方改革は進みませんが、経営トップがしっかりとビジョンや戦略を共有すること、働き方改革へのコミットメントを強く打ち出すことがその前提条件となります。
働き方改革の原点に立ち返り、生産性の向上(付加価値の高い業務への集中・拡大)を中心に据えることで、より付加価値を創出できる、より利益率の高い組織への転換を図ることができます。
同時に、付け焼刃ではない真の働きやすい環境づくりが進み、それが社員のモチベーション向上や離職率の低下につながります。また、ボトムアップで考えさせることで主体的に考えられる社員の育成にもなりますし、プロジェクトとして進めていくことでコラボレーションで価値創造できる活発な組織への転換を図ることもできます。

ぜひ働き方改革をネガティブに捉えず、経営改革・組織活性化へのきっかけとして取り組んでみてください。

 

小島慶亮
中小企業診断士
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 事業開発部 副部長
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員/ビジネス創造部 部長/広報部

コンサルティングは、ビジネスモデル、戦略立案、事業計画、経営改善、財務、マーケティング、webプロモーション、ブランディング、創業支援、6次化支援など。補助金申請も多数採択。講師としては、人事採用、ハラスメント防止、ビジネスモデル、戦略立案、サービスデザイン、UX、アイデア発想、経済学、プレゼン、ファシリテーション、交渉術、ロジカルシンキング、フレームワーク思考、創業者向けセミナーなど。