“フェーズフリー”という言葉を聞いたことはありますか?
 今、災害大国の日本で生まれた“フェーズフリー”という概念が少しずつ浸透しつつあります。今回は中小企業の製品・サービスにも取り入れられる“フェーズフリー”について、紹介したいと思います。

■ フェーズフリーとは
 フェーズフリーとは、日常時と非常時というフェーズをなくすことを意味しています。一般的には、防災品は災害が起きた時に使用するもので、日常生活の中で使用することはありません。また、日頃使用している日用品はいざ災害が起きた時には役立たないということは多々あります。そうではなく、日常時でも非常時でも製品・サービスの機能や価値を損なわずに使用できるという考え方をフェーズフリーといいます。

(例)
 ・普段は観葉植物の鉢植えとして使用しているものが、非常時にはヘルメットになる
 ・普段はお洒落なレインウェアとして使用しているポンチョが、非常時は防水・防寒着にもなり、更に着替え時や災害トイレの使用時にも活用できる
 ・普段は包んだものを雨から守ってくれる超撥水の風呂敷は、水を運ぶことができるため、非常時の怪我人のケアなどに役立つ

 上記は、日常時も災害時も便利で質の高い生活を送るのに役立つものであり、フェーズフリーの一例です。
 フェーズフリーへのアプローチ方法としては、①防災品を日常時にも使用できるようにする、②日用品を非常時にも活用できるようにする、といった2通りのアプローチがあります。既に日常時でも非常時でも機能を発揮できるものであれば、改めてフェーズフリーという言葉で訴求することで、その製品の価値を伝えやすくなります。
 また、一般社団法人フェーズフリー協会からフェーズフリー認証を受けると、「PF(PHASE FREE)認証マーク」を商品パッケージやパンフレット等に使用できるようになります。認証は、フェーズフリーの5つの原則<①常活性(どのような状況においても利用できること)、②日常性(日常から使えること、日常の感性に合っていること)、③直感性(使い方、使用限界、利用限界が分かりやすいこと)、④触発性(気づき、意識、災害に対するイメージを生むこと)、⑤普及性(参加でき、広めたりできること)>に基づいて評価・審査されます。

■ フェーズフリーに取り組む自治体・企業
 フェーズフリーの考え方を導入する自治体や大手企業が増えています。

・豊島区
 豊島区では、2019年11月より、電気バス「IKEBUS(イケバス)」が運行を開始しています。この「IKEBUS」は、普段は池袋の街を走っているおしゃれなバスですが、非常時にはバッテリーを非常用電源として使用することができます。スマートフォンを2,000台~2,500台充電できる性能があるようです。また、公園にもフェーズフリーの発想を取り入れており、災害時には防災拠点として機能を果たせるよう設計されています。

・徳島県鳴門市
 鳴門市の地域防災計画には、フェーズフリーの研究及び啓発に取り組む旨が盛り込まれています。新庁舎の建設や教育分野などにフェーズフリーの考え方を導入するほか、広報誌や市が主催するイベントで積極的にフェーズフリーを紹介しています。

・アスクル株式会社
 アスクル株式会社は、特設サイトでフェーズフリー認証を受けた製品を紹介しています。

 アスクル フェーズフリー特設サイト
 https://www.askul.co.jp/csr/special/phasefree.html

■ 中小企業がフェーズフリーに取り組むメリット
 中小企業の製品・サービスにフェーズフリーの発想を取り入れることで、下記のメリットがあると考えます。

・製品の付加価値の向上
 必ずしもゼロから新製品を開発する必要はありません。既存製品の機能を見直したりデザインを工夫したりすることで、フェーズフリーを実現できる可能性は大いにあります。日常時の機能はもちろん、非常時にも価値を発揮することを訴求できれば、価格が多少高くても手にしてもらえるかもしれません。製品の付加価値向上を目指すのであれば、「非常時にも役立つようにできないか」「日常時にも活用できないか」といった視点で製品を見直すことは、非常に有効と考えられます。

・ビジネスチャンスの拡大
 フェーズフリー商品の開発により、防災意識をもつ新たな顧客の開拓が期待されます。企業にとっては、防災品を収納するスペースや予算には限りがある中で、いかに災害時に従業員・顧客の安全を確保するかは大きな課題となっており、今後、同じ製品であればフェーズフリーのものを購入しようとする企業や自治体は増えてくると思われます。また、フェーズフリー認証を受ければ、先述したアスクルの特設サイトでの紹介やPF認証マークによるPRも期待できます。

■ まとめ
 地震や台風など大きな災害が起きた直後は防災意識が高まりますが、その意識を維持し続けることは非常に困難です。日常生活で使用する製品が災害時にも役立つものであれば、防災意識の向上に頼らずとも防災を実現できるでしょう。今後、“フェーズフリー”という考え方は、様々な場面で導入が進んでいくと思われます。新たな可能性を広げるためにも、自社の製品・サービスにフェーズフリーの発想をぜひ取り入れてみてください。

参考
一般社団法人フェーズフリー協会HP
https://phasefree.or.jp/phasefree.html

略歴
清水 美里
中小企業診断士

一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 事業開発部
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会中央支部 執行委員/ビジネス創造部 副部長